佳否かひ)” の例文
詩の佳否かひは暫く云はず、明治二十六年の昔、既に文壇ドストエフスキイを云々するものありしを思へば、この数首の詩に対して破顔一番するを禁じ難きもの、何ぞ独り寿陵余子じゆりようよしのみならん。
句の佳否かひかかはらず、これらの句が与へる感じは、蕪村ぶそんにもなければ召波せうはにもない。元禄げんろくでも言水げんすゐ一人ひとりである。自分は言水の作品中、かならずしもかう云ふ鬼趣きしゆを得た句が、最も神妙なものだとは云はぬ。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
勿論文体すなはち作品と云ふ理窟なければ、文体さへ然らばその作品が常にあらたなりとは云ふべからず。されど文体が作品の佳否かひに影響する限り、絢爛けんらん目を奪ふ如き文体が存外ぞんぐわい古くなる事は、ほとんど疑なきが如し。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)