何度なんたび)” の例文
その時は名古屋まで汽車で、名古屋から先は人力車で郷里くにへ向かいましたが、途中の峠の上あたりにはもう何度なんたびとなく霜の来たところもありました。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
実行家の第一資格たる向う見ずに猪突ちょとつする大胆を欠いていた。勢い躍り出すツモリでいても出遅れてしまう。機会は何度なんたび来ても出足が遅いのでイツモ機会を取逃がしてしまう。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
おしまぬ、ね、は惜まぬから手放さないか、と何度なんたびも言われますがね、売るものですか。そりゃ売らない。はばかりながら平吉売らないね。預りものだ、手放していものですかい。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの時だって、村の為に自分の物まで持出してサ……父親おとっさんは又、かんの起る度に家を飛出す。峠の爺を頼んで連れて来て貰うたッて、お金でしょう。何度なんたびにか山や林を売りました。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何度なんたび会っても他人行儀で、心底しんそこから胸襟きょうきんを開いて語るという事がなかった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)