佐倉炭さくらずみ)” の例文
今朝けた佐倉炭さくらずみは白くなって、薩摩五徳さつまごとくけた鉄瓶てつびんがほとんどめている。炭取はからだ。手をたたいたがちょっと台所まできこえない。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しまった佐倉炭さくらずみ、底光る火気、キチキチとひわれる音、燃えるガスの焔の色、そのうえには南部の鉄瓶がどす黒くのっている。それはやがて耳に快い松風をきかすであろう。
独り碁 (新字新仮名) / 中勘助(著)
自分にびる花やかな色が、新しく活けた佐倉炭さくらずみほのおと共にちらちらと燃え上るのが常であったけれども、時には一面に変色してどこまで行っても灰のように光沢つやを失っていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母はらしたる灰の盛り上りたるなかに、佐倉炭さくらずみの白き残骸なきがらまったきをこぼちて、しんに潜む赤きものを片寄せる。ぬくもる穴のくずれたる中には、黒く輪切の正しきをえらんで、ぴちぴちとける。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)