他手ひとで)” の例文
今夜中に助け出して、財産も他手ひとでには渡さないから、必ず御案じなさるな。と言語ことばを尽して慰むれば、うなずくようにまなこを閉じぬ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わっちが弟子に来た時分は釘一本他手ひとでにかけず、自分で夜延よなべに削って、精神たましいを入れて打ちなさったから百年経っても合口えいくちの放れッこは無かったが
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
けれども結局矢張り同じ他手ひとでをかりるにしても自分の近くでないとどうしても安神あんしんが出来さうにもありませんので連れてかへることにしました。
らいてう氏に (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
彼はちょっと考えたあとで、他手ひとでを借りずにもう一度あの男を救いだす工夫をしようと決心して、元の場所へ引きかえした。彼は狂気のように駆けだした。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
が、祖父が亡くなると、あとはその父の無謀な野心のために折角の家畑山林悉く他手ひとでに渡つて、二人の娘を私の家に捨てゝおいたまま父はその頃の流行であつた臺灣の方に逐電したのであつた。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
これ迄一ヶ年以上私は少しも他手ひとでゆだねずに乳も自分の以外にはやらずに育てゝ来ました。私は子供をおいて外出するやうな事も全く稀なのでした。
釘一本他手ひとでにかけず一生懸命に精神たましいを入れて
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)