今戸心中いまどしんじゅう)” の例文
露伴の「雲のそで」、紅葉こうようの「多情多恨」、柳浪りゅうろうの「今戸心中いまどしんじゅう」あたりが書かれたころに当るはずである。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
明治時代の吉原とその附近の町との情景は、一葉いちよう女史の『たけくらべ』、広津柳浪ひろつりゅうろうの『今戸心中いまどしんじゅう』、泉鏡花いずみきょうかの『註文帳』の如き小説に、滅び行く最後の面影を残した。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今戸心中いまどしんじゅう』、『黒蜥蜴くろとかげ』、『河内屋かわちや』、『亀さん』とうの諸作は余の愛読してあたはざりしものにして余は当時紅葉こうよう眉山びざん露伴ろはん諸家の雅俗文よりも遥に柳浪先生が対話体の小説を好みしなり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
天外子が『楊弓場ようきゅうばの一時間』は好箇の写生文なり。『今戸心中いまどしんじゅう』と『浅瀬の波』に明治時代の二遊里を写せし柳浪りゅうろう先生のかつて一度ひとたびも筆をこの地につけたる事なきはむしろ奇なりといふべくや。
葡萄棚 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
わたくしが中学生の頃初め漢詩を学びその後近代の文学に志を向けかけた頃、友人井上唖々いのうえああ子が『今戸心中いまどしんじゅう』所載の『文芸倶楽部ぶんげいクラブ』と、緑雨りょくうの『油地獄』一冊とを示してしきりにその妙処を説いた。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)