二歩三歩ふたあしみあし)” の例文
丑松はまだ詑び足りないと思つたか、二歩三歩ふたあしみあし退却あとずさりして、『許して下さい』を言ひ乍ら板敷の上へひざまづいた。何事かと、後列の方の生徒は急に立上つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「そう。じゃ、またその中、どこかでうだろう。」とそのまま行きかけるので、君江は住処だけでも聞いて置きたいと思って、二歩三歩ふたあしみあし一緒に歩きながら
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
跳ね返ッた障子を文三は恨めしそうに凝視みつめていたが、やがて思い切りわるく二歩三歩ふたあしみあし
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
この時かかる目的の為に外面そといでながら、外面に出て二歩三歩ふたあしみあしあるいて暫時しばし佇立たたずんだ時この寥々りょうりょうとして静粛かつ荘厳なる秋の夜の光景が身の毛もよだつまでに眼にしみこんだことである。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
丁度捨吉は教場を出て二歩三歩ふたあしみあし階下したの方へ行きかけたところであった。その時捨吉は、近く来た勝子から彼女の用意した文章をも受取って、黙って階段を降りた。彼女は何事なんにも知らなかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
立止って店飾みせかざりの人形を見ていると、酔ッ払った学生がわざと突当りそうにしたんで、わたしは少しわきへ寄る。そのうちに男のほう二歩三歩ふたあしみあし先になって、夜店の前に立留たちどまったから、わたしも立留ったのよ。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)