中殿ちゅうでん)” の例文
と、やや落着いて、夕べをさかいに、ひとまず諸卿は中殿ちゅうでん(清涼殿)の昼ノ御座から西の渡殿わたどのを、休息のため、退がって行った。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六位ノ蔵人くろうどや殿上のはしたちで、それぞれが物蔭での目撃を、中殿ちゅうでん上達部かんだちべへ、むらがり告げていたのであった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつか夜になっていて——深更もなお御簾越みすごしに中殿ちゅうでんの白い灯をよぎる衣冠の影が、そっと外へ立ったり席へもどってはまた議事に入るなど、ただならぬ気配であった。
女官は歯の根も合わず「……中殿ちゅうでんの東北にあたる“よる御殿おとど”でいらせられます」と答え、賊が走り去ったすきに、こけ転んで、天皇の御帳みとばりの内へ、かくかくと密奏した。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わけて千種忠顕は早々に出仕しゅっしして、上卿の面々とともに中殿ちゅうでん御座ぎょざへまかり出ていた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女の影は暗がりで見る玉虫の妖しい光さながらに、やがて、みかどのおられる中殿ちゅうでんのほうへサヤサヤを曳いて行く風だった。そしてまもなくこう御座ぎょざへおつたえしているのが声低く洩れていた。