世心よごころ)” の例文
石井氏が綾之助をいとしんだのは、恋ではなかったが、綾之助は世心よごころがつくにしたがって、この人にこそと思いそめたのであった。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ようよう世心よごころの付きめて、男装せし事の恥かしく髪を延ばすに意を用いたるは翌年十七の春なりけり。この時よりぞ始めて束髪そくはつの仲間入りはしたりける。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
深紅しんくの色の薔薇ばらの花、秋の夕日の豪奢はでやかさを思はせる深紅しんくの色の薔薇ばらの花、まだ世心よごころのつかないのに欲を貪る者の爲添伏そひぶしをして身を任すたふと供物くもつ僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
紳士であると思えばこそ世心よごころ知らぬ彼女もしたがっていたのであろうが、長い月日のうちには素振そぶりのあやしげなのが仲間うちからうわさされるようになった。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)