下市しもいち)” の例文
よしのがは、下市しもいちゆくと橋こえず、かなたはるかに上市かみいちの、川ぞひ家並やなみ絵とかすむ、車峠の大坂や、車にちりぬ、山ざくら花。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
補記、近時土屋文明氏は「滝つ河内」はもっと下流の、下市しもいち町を中心とした越部、六田あたりだろうと考証した。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
今年の五月、菊五郎一座が水戸みとへ乗込んだとき。一座の鼻升びしょう、菊太郎、市勝いちかつ五名は下市しもいち某旅店ぼうりょてん(名ははばかつてしるさぬ)に泊つて、下座敷したざしきの六畳のに陣取る。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
その人と云うのは大和やまと下市しもいちで某銀行の支店長をしてい、子供が五人あるのだけれども、一番上が男の子で、目下大阪の某学校に行っており、二番目のが女の子で
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
下市しもいちの驛まで乘つて行つたころは、遠く望んで見る大山でなしに、山の麓までも見得るやうになつた。雲の蒸す日で、山の頂きは隱れて見えなかつた。それがかへつて山のすがたを一層大きく見せた。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
朝まだき、水戸の上市かみいち下市しもいちは、もう喧騒な庶民風景につつまれていた。馬のいななきも、人のどなり声も、薪のけむりも、あらゆる物のにおいも、旺盛な庶民の欲望と汗から離れているものはない。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「千本桜なら下市しもいちだろう、あそこの釣瓶鮨屋つるべずしやと云うのは聞いているが、———」
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)