上滑うわすべ)” の例文
ブラームスには上滑うわすべりな情熱もなく、はなやかさも、誇らしさもない代り、やぼったいばかりの重厚さと、落ち着き払った深さとがあり
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
これを一言にして云えば現代日本の開化は皮相上滑うわすべりの開化であると云う事に帰着するのである。無論一から十まで何から何までとは言わない。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
尤もそれはほんの最初だけの感じであって、すぐそんな上滑うわすべりの気持は棄てなければならなかったけれど……。
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
メンデルスゾーンには、富裕に育った人のややもすれば陥り易い、驕慢きょうまんと冷たさと、上滑うわすべりなところがなかったのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「要するにこれはただ現状維持を目的として、上滑うわすべりな円滑を主位に置く社交とは全く別物なのです。解りましたか」
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
複雑な問題に対してそう過激の言葉はつつしまなければ悪いが我々の開化の一部分、あるいは大部分はいくら己惚うぬぼれてみても上滑うわすべりと評するより致し方がない。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その学者は現代の日本の開化を解剖して、かかる開化の影響を受けるわれらは、上滑うわすべりにならなければ必ず神経衰弱におちいるにきまっているという理由を、臆面おくめんなく聴衆の前に曝露ばくろした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
百年の経験を十年で上滑うわすべりもせずやりとげようとするならば年限が十分一にちぢまるだけわが活力は十倍に増さなければならんのは算術の初歩を心得たものさえ容易たやすく首肯するところである。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そりゃおれも知ってる。お前の云う通りだ。今の日本の社会は——ことによったら西洋もそうかも知れないけれども——みん上滑うわすべりの御上手ものだけが存在し得るように出来上がっているんだから仕方がない」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)