丁字ていじ)” の例文
淡路街道と丁字ていじ形になる追分から北へ走って、林崎はやしざきのひろい塩田の闇に、潮焼しおやき小屋のかまどのけむりが並木越しに白く眺められた頃である。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これに反していたずらに美人の名に誘われて、目に丁字ていじなしと云うやからが来ると、玄機はごうも仮借せずに、これに侮辱を加えて逐い出してしまう。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
けれどもただ眼の前に、美土代町みとしろちょうと小川町が、丁字ていじになって交叉している三つ角の雑沓ざっとうが入り乱れて映るだけで、これと云って成功をいざなうに足る上分別じょうふんべつは浮ばなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父には誠意がなく、母には眼に一丁字ていじもなかった。
身を丁字ていじ欄干に寄せかけて暮行く空をながめている。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
初めこの勝三郎は学校教育がるいをなし、目に丁字ていじなき儕輩せいはいの忌む所となって、杵勝同窓会幹事の一人いちにんたる勝久の如きは、前途のために手に汗を握ることしばしばであったが
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)