一致いっち)” の例文
着物を着ている時の顔と、まる裸になった時の顔とは、まだ十分知りあわないうちは、とかく一致いっちしにくいものである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
夫子の性格の(その性格の中の・絶対普遍的ふへんてきな真理と必ずしも一致いっちしない極少部分の)弁明に用いられるおそれがある。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そうして不思議にもこの二つの心的状態が結果に現われたところを見るとよく一致いっちしている場合が起るのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
五人は無言のうちに、道どりのこころ一致いっちして、蔓草つるくさ深山笹みやまざさをわけながら、だらだら谷の断崖だんがいりてゆく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしたちは、さらにそのことについて、いろいろと話しあい、とうとう、意見もほとんど一致いっちしました。そこで、わたしたちは、グラスをかちあわせて、かんぱいしました。
わたしはあのルセットのお形見に、茶色の牛をと思っていた。わたしたちはしかし、どちらにしても、ごくおとなしくって、ちちをたくさん出す牛を買うことに意見が一致いっちした。
東京見物を一つの大きな楽しみにして上京して来た塾生たちは、最初の夜の懇談会こんだんかいで、ほとんど議論の余地なく、満場一致いっちでそれを決議していたのだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
このおそろしい一致いっちは。おそれずになお仔細しさいるならば、前世に喚起かんきした、その前々世の記憶の中に、恐らくは、前々々世の己の同じ姿を見るのではなかろうか。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
人びとはその仕事を仕上げるにどのくらいかかるかというとりとめのない議論ぎろんを始めた。結局けっきょくすくなくともこのはかの中にこの後八日ははいっていなければならないことに意見が一致いっちした。八日。
「その心臓に負けて、いやいやながら全員一致いっち推薦すいせんをやったというわけか。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)