一宿いっしゅく)” の例文
自分が一宿いっしゅくを頼んだときにも、彼は初めの親切にひきかえてすこぶる迷惑そうな顔をみせた。それにも何かの子細がありそうである。
くろん坊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かねて信心しんじんする養安寺村の蛇王権現だおうごんげんにおまいりをして、帰りに北の幸谷こうやなるお千代の里へまわり、おそくなれば里に一宿いっしゅくしてくるというに、お千代の計らいがあるのである。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
折節松山中学校に教鞭きょうべんを取りつつあった夏目漱石氏の寓居に同居し、極堂きょくどう愛松あいしょう叟柳そうりゅう狸伴りはん霽月せいげつ不迷ふめい一宿いっしゅくらの松風会員諸君の日参して来るのを相手に句作にふけったのであったが
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
一宿いっしゅくの礼をあつく述べて叔父は草鞋わらじの緒をむすぶと、僧はすすきを掻きわけて、道のあるところまで送って来た。
くろん坊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
唐の元和げんな年中、きょ州の趙季和ちょうきわという旅客が都へ行く途中、ここに一宿いっしゅくした。趙よりも先に着いた客が六、七人、いずれもとうに腰をかけていたので、あとから来た彼は一番奥の方の榻に就いた。