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ぬれいろ
庭は
一隅の
梧桐の繁みから次第に暮れて来て、ひょろ
松檜葉などに
滴る
水珠は夕立の後かと
見紛うばかりで、その
濡色に夕月の光の薄く映ずるのは何とも
云えぬすがすがしさを
添えている。
華奢な
男女も
忙しない車馬も一切が
潮染の様な
濡色をして
其中に動く。
菱餅の底を渡る気で
真直な向う角を見ると藤尾が立っている。
濡色に
捌いた濃き
鬢のあたりを、
栂の柱に
圧しつけて、斜めに持たした
艶な姿の中ほどに、帯深く差し込んだ
手頸だけが白く見える。