際立きはだ)” の例文
正面しやうめん待乳山まつちやま見渡みわた隅田川すみだがはには夕風ゆふかぜはらんだかけ船がしきりに動いてく。水のおもて黄昏たそがれるにつれてかもめの羽の色が際立きはだつて白く見える。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
襟章えりしやうも赤や緑のやうな際立きはだつた色ではなかつたから、砲兵であつたかも知れない。その男は八の方を見返りもせずに行つた。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
背景にふねほばしらを大きくいて、其あまつた所に、際立きはだつて花やかなそらくもと、蒼黒あをぐろみづの色をあらはしたまへに、裸体らたいの労働者が四五人ゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
が、それ等は何れも如何いかにも尋常に、少しの際立きはだつことなく、いつも穏かに取片附いてゆき、そこにはほとんど何の推移もなかつたやうにさへ思はれた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
わたくし三々五々さん/\ごゞむれをなして、其處此處そここゝつてる、顏色いろ際立きはだつてしろ白耳義人ベルギーじんや、「コスメチツク」で鼻髯ひげけんのやうにかためた佛蘭西フランス若紳士わかしんし
その白と黒の毛色が、木々の中に際立きはだつて鮮やかに見えた。これこそベシーの Gytrashガイトラッシュ ——長い毛と大きな頭とを持つた獅子ししのやうな動物の姿だつた。
何も際立きはだつた事件はないが、魚河岸うをがしの暇になつたり、何かするところをなかなか器用に書いてある。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
えだ々のなかの水田みづたみづがどむよりしてよどむでるのに際立きはだつて真白まつしろえるのはさぎだつた
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おつぎのよそほひはそばでは疎末そまつであつても、處々ところ/″\ちらり/\としろ穗先ほさきのぞいて大抵たいていはまだえ/″\としてたゞまい青疊あをだゝみいたやう田圃たんぼあひだをくつきりと際立きはだつてつのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ブリユツセルは京都程の大きさに過ぎない都で、其れが麹町区の様な高台と神田日本橋両区程の低地とに際立きはだつて区分され、高台の方に王宮初め諸官や諸学校や美術館やがすべあつまつて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
都育ちの小池の姿が、四人一組の薙刀振なぎなたふりの中で、際立きはだつて光つてゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
銀杏返いてふがへしに結つた髪、黒の紋附の縮緬ちりめんの羽織、新しい吾妻あづま下駄、年は取つてもまだ何処かに昔の美しさとあでやかさとが残つてゐて、それがあたりの荒廃した物象の中にはつきりと際立きはだつて見えた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
中に、量のある了輔の聲と、榮さんのソプラノなのが際立きはだつて響く。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
たちまともしびの光の消えてくやうにあたりは全体に薄暗うすぐらく灰色に変色へんしよくして来て、満ち夕汐ゆふしほの上をすべつて荷船にぶねのみが真白まつしろ際立きはだつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
はなやかないろなかに、白いすゝきを染め抜いた帯が見える。あたまにも真白な薔薇ばらを一つしてゐる。其薔薇ばらしい木陰こかげしたの、くろかみなか際立きはだつてひかつてゐた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
武村兵曹たけむらへいそういまわたくしおなじやうに、この軍艦ぐんかん賓客ひんきやくではあるが、かれ軍艦ふねいへとする水兵すいへい——水兵すいへいうちにも氣象きしやうすぐれ、こと砲術ほうじゆつ航海術かうかいじゆつには際立きはだつて巧妙たくみをとこなので
差渡さしわたし、いけもつとひろい、むかうのみぎはに、こんもりと一ぽんやなぎしげつて、みどりいろ際立きはだてて、背後うしろ一叢ひとむらもりがある、なか横雲よこぐもしろくたなびかせて、もう一叢ひとむら一段いちだんたかもりえる。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ひさしかたぶきたるだいなる家屋の幾箇いくつとなく其道を挾みて立てる、旅亭の古看板の幾年月の塵埃ちりほこりに黒みてわづかに軒に認めらるゝ、かたはら際立きはだちて白く夏繭なつまゆの籠の日に光れる、驛のところどころ家屋途絶とだえて
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
食堂には応接しつつぎを使つた。代助はいたあひだから、しろい卓布のかど際立きはだつたいろを認めて、午餐は洋食だと心づいた。梅子は一寸ちよつと席を立つて、つぎ入口いりぐちのぞきに行つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
人家じんか軒下のきした路地口ろぢぐちには話しながらすゞんでゐる人の浴衣ゆかた薄暗うすぐら軒燈けんとうの光に際立きはだつて白く見えながら、あたりは一体にひつそりして何処どこかで犬のえる声と赤児あかごのなく声がきこえる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
なまめいたむねのぬしは、顏立かほだちも際立きはだつてうつくしかつた。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
明かな夜の色の中に黒くくつきりと際立きはだつて見える。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
三四郎も女れんわかれて下宿へもどらうと思つたが、三人が話しながら、ずる/\べつたりにあるき出したものだから、際立きはだつて、挨拶をする機会がない。二人ふたりは自分を引張つて行く様に見える。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)