つま)” の例文
「道は却って道無きを道とす、かも知れないよ。つまり、仕官も学問も自分の本当の宝になるものじゃ無くて、つまらないからなあ」
荘子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
此上このうへにおたのみは萬々ばん/″\見送みおくりなどしてくださるな、さらでだにおとこ朋友ともだち手前てまへもあるになにかをかしくられてもおたがひつまらず
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とどのつまり私は、そんな事ばかりを繰返し繰返しっている、つまらない夢遊病患者みたような者ではあるまいか……とも考えられる。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「……ウム、そうだったか。お前さんは、伜が村の奴等に見殺しにされようとするのを、助けようと……」河村の言葉がグッとつまった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どうもこの歌が出来た時には歌人うたよみから見るとむろんつまらんものでもありましょうが自分の考えからすると実に愉快に堪えられなかった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
らつたうへうしてひまつぶして、おまけに分署ぶんしよおこられたりなにつかすんぢや、こんなつまんねえこたあ滅多めつたありあんせんかんね
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
余り人の事を批評してもつまらぬ事です。私は一体そんな事については何を議論しようとも思わぬといって、少しも相手にならなかった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「何だ何だ、蜜柑を遣る。かう死んだ小児がきでも思い出したか、つまらねえ後生気を起しやがるな、打棄うっちゃっておけというに、やい。」
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「馬鹿だな、八、あんなつまらねえ事に感心しやがつて、手前が感心なんかするから、俺までられて、飛んでもない方へ行くぢやないか」
拾ったところで知らんかおをしているにきまってる、そうなると、俺らはまたあの家を追出おんだされるんだ、どっちへ行ってもホントにつまらねえ
「何んだつまらねえそんなことか。何がその他にいい物がある? とかく浮世は色と金、ちゃアんと昔から云っているじゃねえか」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此方から短銃ぴすとると言た時に直様すぐさまはい其短銃ぴすとる云々しか/″\と答えたのが益々彼れの手管てくだですわ、つまり彼れは丁度計略の裏をかいて居るのです
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
肉眼で見れば、ここはただ暗いかずのだが、よく見よ、よく思え、ここには和漢のあらゆる聖賢が文化へささげた光明がつまっている。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兎角とかくするうちにつき滿ちた。いよ/\うまれるといふ間際まぎはまでつまつたとき、宗助そうすけ役所やくしよながらも、御米およねことがしきりにかゝつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
つまつた俳優連が襲名によつて人気を新しくし、それと同時に自分の技芸にも一飛躍を企てようとするのは、あながち間違つた仕方でもない。
黄鶴楼の庭前に作った仮舞台かりぶたいと面して見物席にてたのは二タつづきの大広間であって、二、三百人のお客がギッシリつまった。
『世の中がつまらない!』と言つた様な失望が、漠然と胸に湧く。自省の念も起る。気を紛らさうと思つて二人の小供を呼んだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
如何どういう訳か邪魔いりて間もなくそなたは珠運しゅうんとか云うつまらぬ男に、身を救われたる義理づくやら亀屋かめやの亭主の圧制やら、急に婚礼するというに
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたし医者いしゃで、貴方あなた精神病者せいしんびょうしゃであるとうことにおいて、徳義とくぎければ、論理ろんりいのです。つま偶然ぐうぜん場合ばあいのみです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「馬鹿馬鹿しいの、つまらないのと云うものの、君の阿父おとっさんがんなことになろうとは、実に夢にも思わなかったよ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いつもつまらない飴細工ばかり引き当てて、欲しいと思う橋弁慶なぞは、何時いつも取ったことがなく落胆らくたんしたものだった。
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
私はつまった。どう言い表わしていいか判らなかった。私はなぜだか、こう問いつめられると赤面するような気がした。
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そうです、というのは、それほど、その時のぼくの頭には、あなたの水色のベレエが、いっぱいにつまっていたのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
お糸さんの用事つてのはつまらないことであつた。品川のある小新聞社の社員が艶種つやだねを売りに来たので、少しばかりの金を「桔梗」のおかみがくれてやつた。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
つまらねえことを腹ア立てやアがつて、たつた一人の血を分けた兄のおれ置去おきざりにしやアがつてよ、れとふのもおれが悪いばつかりだ、あゝ口惜くやしい
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は悲しみに息をつまらせながら、苦しんではゐたけれども、泣いてはゐたけれど、伯母さま助けて下さい、助けて下さいつてお願ひしたぢやありませんか。
ぎっしり、抽斗ひきだしぱいつまった衣装いしょうを、一まいのこらずたたみうえへぶちまけたそのなかを、松江しょうこう夢中むちゅうッかきまわしていたが、やがてえながらしん七にめいじた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
鶴見は国もとへ行っていたとき、その様子を傍からそっと見ていて、せっぱつまった気の毒な事情を知っていた。そんな状態になるまでに落ちぶれたのである。
うしろ隅々すみずみについている瓦斯ガス裸火はだかびの光は一ぱいにつまっている見物人の頭にさえぎられて非常に暗く、狭苦しいので、猿のように人のつかまっている前側の鉄棒から
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は愈切迫つまつたと思つた——然し声はそれつきり、いくら待つても待つても誰も何とも云ふものがない。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
後ではいつも少ししおれて『しかしあなたの帰り、十時、十一時となります。あなたの留守、この家私の家ではありません。いかにつまらんです。しかし仕方がない』
福沢諭吉もまた偉そうな事をいって、役人などはつまらぬ人間のようにいう。両方で小癪こしゃくに触るので一時は衝突しておったものだ。ところが明治六年であったと思う。
ただならぬ男の語気に、身をかたくして振向いた相手の視線に射られて、澤は言葉がつまってしまった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
あいちやんは芋蟲いもむしがこんなつまらぬねんすのですこ焦心じれッたくなつて、やゝ後退あとじさりしてきはめて眞面目まじめかまへて、『おまへこそだれだ、一たいさきはなすのが當然あたりまへぢやなくッて』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
さぐり給ふか吾儕わたしも共に案じられてと云ば忠兵衞點頭うなづきて年より怜悧さかしき和郎そなたの心配吾儕も切迫せつぱつまつた故まづ云るゝ通り五日をば承知をなして受合たれど何をあてにも雲をやみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「あれか?」氷峰はつまらなささうに笑つて、「どうせ、駄目ぢやから、あれツ切りにして置いた。」
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「それで、おぬしは徳利のカケラで腹を切ろうというのかい、いかに窮してあげくでも、これはまたつまりきったことだ。南部の貧乏も、これで底が入ったというものだ」
ボニン島物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「別に無いね、或る男と或る女と二人集つて、従来より更に複雑な、そして美しさうな生活を見出さうと勉める時、ひとはこれを恋と云ひます。つまり勉めて見るだけでさ。」
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
之は露国ワルソウの人だからつま波蘭人ポーランドじんだ、其波蘭人のドクトル、ザメンコフといふ人の発明で、かのウォラビュックなどから視ると、遙かに自然的で無理が少ないから
エスペラントの話 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
与一はくずぬいてはしめていた。私は胃の中につまったように、——まぶたれ上って来た。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
それはつまり疑っとるからだ。それに君は君の隣の男の変装を看破みやぶる事が出来ない。詰り信じとるからだ。信じているのと疑っているのと程、結果に影響するものは少いな。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
『オヤ、亞尼アンニーがまたつまらぬことかんがへていてりますよ。』と、春枝夫人はるえふじん良人おつとかほながめた。
ほかのこととは違うけん、かんげえ込むのは無理もなえが、あの兄さんに限って、そねえなバカんことのあろうはずがなえ……困ったのう、俺、つまんねえこといわにゃよかったなア
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
この世の中の全体が、何かトテモたまらなく、切っぱつまって来たように思われて来た……。
蝕眠譜 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
全體ぜんたい杉村君すぎむらくんきみはづぢやアなかツたのか』と水谷氏みづたにしは一むくゐると、杉村氏すぎむらし楚人冠そじんくわんりう警句けいくけて『るならるが、ないのにつたつてつまらないよ』とる。
そして、肥厚性鼻炎ひこうせいびえんででもあるのか、始終鼻をつまらせ、その大きな口をポカンと開けて呼吸をしているのです。寝ていて、鼾をかくのも、やっぱり鼻の病気のせいなのでしょう。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ぐ頭上で、火薬庫が爆発した様にはげしいらいが鳴った。彼はぐっといきつまった。本能的に彼ははしり出したが、所詮此雷雨の重囲を脱けることは出来ぬと観念して、歩調をゆるめた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ちと雲行がおよろしくござらぬと見えて、俄かにぐッと御つまりでおじゃりまするな。
その題目の一つ一つが少年の心には、あらゆる空想の種であった。これらの百冊の題目は、見開き二ページにぎっしりつまっていた。その二頁に、私たちは、いつまでもあかず見入っていた。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
半次、こうなったらここに居たら身がつまる。逃げる先がお前あるのか。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)