つばさ)” の例文
やはり、そのからすは、つばさがいたんでいるだけにつかれやすかったのであります。ややもすると、そのからすはおくれがちになりました。
翼の破れたからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
漆黒しっこくつばさも輝いて見事に見えるけれども、数十羽かたまって騒いでいると、ゴミのようにつまらなく見えるのと同様に、医専の生徒も
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
久しぶりでこのクロを、じぶんひとりで、ほしいままにのってかけるのだが、いまは、そのつばさの力さえなんだかおそい心地ここちがする。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
流れる血は生きているうちからすでに冷めたかったであろう。烏が一疋いっぴき下りている。つばさをすくめて黒いくちばしをとがらせて人を見る。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(ひい。)とをんなこゑさぎ舞上まひあがりました。つばさかぜに、はなのさら/\とみだるゝのが、をんな手足てあしうねらして、もがくに宛然さながらである。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれらの徒歩かちわたりをし、みずかきでもありそうな、沼地をよちよち走りまわる足のかかとにマーキュリーのつばさでもはえないかぎりは。
また、その図面には、飛行機が数台つばさをやすめているところがかいてあった。それはいずれもみなヘリコプター式の飛行機ばかりであった。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
また一方においては空想のつばさに乗って、遠くインドをはじめ、グリーンランドやアフリカ、中国にまでも思いをせている。
絵のない絵本:02 解説 (新字新仮名) / 矢崎源九郎(著)
八蔵はその足で大森へまわって、かの茶屋へ二羽の鶏を売ったが、その時には皆おとなしくつばさを収めて、前のように暴れ狂うことは無かった。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして彼等かれらは、その立派りっぱつばさひろげて、このさむくにからもっとあたたかくにへとうみわたってんでときは、みんな不思議ふしぎこえくのでした。
そうして、女の美しい声が耳にはいるごとに、彼はエンゼルのつばさが自分のたましいを撫でて行くようにも感ずるのである。
あたかも私自身の思惟イデエそのものであるかのごとく重々しく羽搏はばたきながら、そしてそのつばさを無気味に青く光らせながら……。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
自由の血は恋、恋のつばさは自由なれば、われその一を欠く事を願わずと答う、乙女ほほえみつ、さればまず君に見するものありと遠く西の空を
(新字新仮名) / 国木田独歩(著)
第一は雨や雪の時にまとう蓑であって、いわばこれが正式である。用途の上から一番幅広く出来、しばしば前に合わせる所に左右のつばさが附けてある。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
取り残された鶴見は、景彦に大きなつばさがあって、そのひと羽ばたきではら退けられるような強い衝撃を受けたのである。
しかもそのまん中には、髪をまん中から分けた若い男が、口をいて、よだれを垂らして、両手をつばさのように動かしながら、怪しげな踊を踊っていた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは八白鳥はくちょうゆきのように白いつばさをそろえて、しずかにりて行くのでありました。伊香刀美いかとみはびっくりして
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
『富士』は、長さ百米の大きなつばさから、青白いロケットの煙をはきながら、『荒鷲』隊のただ中へ突進した。ごオーッと一陣のつむじ風がまき起る。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
それは薄れゆく霧を突き破って真直ぐに立ち昇り、渦巻うずまきながら円を開いて拡げたつばさのようにだんだんと空を領している煙であった。彼女は立ち上った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
大穴はつばさでもはえていないかぎり、どんな幅とびの選手だってとびこせないほど広いのですし、いっぽうの秘密の通路のコンクリートのとびらのひらき方は
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
力尽ちからつきたしし、つばさの自由を失ったわし、またはめすを失ったはとのように、ロボもつまのブランカにさきだたれて力をおとし、この世に望みを絶ったのであろう。
右にいふあみだぼうには水なく、谷川あれども山よりは数丈すぢやうの下をながる、つばさなければくむことあたはず。
よるよ、やれ、はややれ、ローミオー! あゝ、よるひるとはおまへことぢゃ。よるつばさりたおまへは、からすいまりかゝるそのゆきしろゆるよりもしろいであらう。
それから自分じぶん學校時代がくかうじだいによく進撃しんげきしたやぶそばや梅月ばいげつことや、其他そのほか樣々さま/″\こと懷想くわいさうして、つばさあらばんでもきたいまで日本につぽんこひしくなつたこと度々たび/\あつたが
私は行きたいと云つた。だが私もお前が云つたやうに、私には飛んで行くつばさがないつて云つたんだよ。
サヤサヤという羽音はおとといっしょに、一羽の小鳥が窓から飛び込んできて、書机デスクのそばの止まり木にとまった。背中が葡萄色で、つばさに黒と白の横縞よこじまのある美しい懸巣かけすである。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
鸚鵡おうむのような一羽の秦吉了しんきちりょうが飛んで来ていばらの上にとまって、つばさをひろげて二人をおおった。玉は下からその足を見た。一方の足には一本の爪がなかった。玉は不思議に思った。
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
鴻雁こうがん翔天しょうてんつばさあれども栩々くくしょうなく、丈夫じょうふ千里の才あって里閭りりょに栄すくなし、十銭時にあわず銅貨にいやしめらるなぞと、むずかしき愚痴ぐちの出所はこんな者とお気が付かれたり。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
遠くの人の集まっている処からも、あるいは木の葉から、あるいは鳥のつばさから、または地をおおう草のかすかなざわめきの音からさえも、何かかすかな響きがあるものである。
空は濃青にみ澱んで、小鳥は陽の光を水飴のようにつばさや背中にねばらしている朝があった。縁側から空気の中に手を差出してみたり、頬を突き出してみたりした復一は、やがて
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
した徉徜さまよつてると何處どこともなくッとこゑがしたので、おもはずあいちやんは後退あとじさりしました、ト一おほきなはとかほびついて、つばさもつはげしくあいちやんをちました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
れば漢文欧文そのいづれかを知らざれば世にたちがたし。両方とも出来れば虎につばさあるが如し。国文はさして要なけれどもしこれを知らんとせばやはり漢文一通ひととおりの知識必要なり。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
次第に興奮して飛沫しぶきがさっと岩頭にはねかかるかと思うと、それをおさえるごとく元のしずかさに返るのであった、一同は大鳥のつばさにだきこまれた雛鳥ひなどりのごとく鳴りをしずめた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
先づ赤穴丹治がいへにいきて、一二三姓名をもていひ入るるに、丹治迎へしやうじて、一二四つばさある物の告ぐるにあらで、いかでしらせ給ふべきいはれなしと、しきりに問もとむ。左門いふ。
地に突いている左右の手が肩までムキ出しに見えていて、脇の下からつばさのような物が時々ひるがえって宙に泳ぐのは、両方の袖が半分ちぎれてブラブラになっているかららしい。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鷓鴣は痙攣けいれんしたように、もがく。つばさをばたばたさせる。羽根を飛ばす。金輪際こんりんざいくたばりそうにもない。彼は、友達の一人ぐらい、もっと楽に、それこそ片手で締め殺せるだろうに。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
斯くて始めて、しんの天才は想像のつばさって人間の住む地上から高く高く、白雲のうちに舞い上り、オリンプスの神々と共に、永遠の美を語り合う資格があるのだと云う事が出来る。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
燈火の周圍にむらがる蛾のやうに、ある花やかにしてふしぎなる情緒の幻像にあざむかれ、そが見えざる實在の本質に觸れようとして、むなしくかすてらの脆いつばさをばたばたさせる。
青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
故に蝶となれる吾は、今つばさある花となりて、願はくは君が為に君の花園に舞はん。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ぎにつたほがらかなこゑくぶっぽうそう(佛法僧ぶつぽうそう)はきつゝきのるいで、かたちからすてゐますが、おほきさはその半分はんぶんもありません。羽毛うもう藍緑色あゐみどりいろで、つばさとが菫色すみれいろびてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
或日、そら長閑のどかに晴れ渡り、ころもを返す風寒からず、秋蝉のつばさあたゝ小春こはるの空に、瀧口そゞろに心浮かれ、常には行かぬかつら鳥羽とばわたり巡錫して、嵯峨とは都を隔てて南北みなみきた深草ふかくさほとりに來にける。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
盡す樣子これ天晴あつぱれの若者なり此者をもらひ受て我養子となし無刀流の劔法を傳授でんじゆせばとらつばさそゆるが如く古今無双の名人と成べし我が流儀りうぎを後世に殘すは是に増たる事あらじ幸ひ兄は親の家督かとく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ああ、かなしみつばさは己の体に触れたのに、己の不性ぶしょうなためにかなしみかわりに詰まらぬ不愉快が出来たのだ。(物に驚きたるように。)もう暗くなった。己はまた詰まらなくくよくよと物案じをし出したな。
お互に兎に角、つばさのある情緒じょうちょを持っている人間なのでございますからね。
ただ、光の鈍い、長々とを引いた、えだに分れたような稲妻いなずまが、空にひらめいているだけで、それもひらめくというよりはむしろ死にかけている鳥のつばさのように、ぴくぴくふるえているのだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
これに加うるに手工細技さいぎ天稟てんりんの妙を有する我が国女工を以てす、あたかもりょうつばさを添うが如し、以て精巧にこれを製出し、世界の市場に雄飛す、天下如何いかんぞこれに抗争するの敵あるを得んや。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
賀茂真淵かものまぶちが、この歌を模倣して、「信濃なる菅の荒野を飛ぶわしつばさもたわに吹くあらしかな」とんだが、未だ万葉調になり得なかった。「吹く嵐かな」などという弱い結句は万葉には絶対に無い。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
左右のつばさに一本ずつ、長い羽があって垂れているのが、この背負せおわくとすこし似ていたので、だれかがたわむれにこのような名をつけたものであるが、それも江戸になってから始まったものでなく
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
赤いステッキは克子の空想の中でつばさをひろげ、その狭い世界から自由に歩きだすかのようである。どんな行きづまりも、どんな迫害も一度赤いステッキを振りまわせば解決がつくもののようであった。
赤いステッキ (新字新仮名) / 壺井栄(著)
篠懸すゞかけの葉はつばさたれし鳥に似て次々に黒く縺れて浚はれゆく。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)