かさな)” の例文
ぱうは、大巌おほいはおびたゞしくかさなつて、陰惨冥々いんさんめい/\たる樹立こだちしげみは、露呈あらはに、いし天井てんじやううねよそほふ——こゝの椅子いすは、横倒よこたふれの朽木くちきであつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
斯様にして夜が白んで来ると、氷の上に積まれた氷板が山の如くかさなつてゐるのである。夜明けからそれを運んで湖岸の田圃に積み上げる。
諏訪湖畔冬の生活 (新字旧仮名) / 島木赤彦(著)
その上に遠い山々はかさなって見える。比叡山——それを背景にして、紡績工場の煙突が煙を立登らせていた。赤煉瓦れんがの建物。ポスト。荒神橋には自転車が通り、パラソルや馬力ばりきが動いていた。
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
十年相かさなりて百年たり。一日なお遠し、一時にあり。一時なお長し、一刻にあり。一刻なおあまれり、一分にあり。ここを以っていう時は千万歳のつもりも、一分より出で、一日にきわまれり
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
さるほどに、やままたやまのぼればみねます/\かさなり、いたゞき愈々いよ/\そびえて、見渡みわたせば、見渡みわたせば、此處こゝばかりもとを、ゆきふうずる光景ありさまかな。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
草鞋わらじ穿いたあしかふへもおちうへまたかさなり、ならんだわきまた附着くツついて爪先つまさきわからなくなつた、うしてきてるとおもふだけみやくつてふやうな。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
凸凹でこぼこ凸凹凸凹と、かさなって敷くいわを削り廻しに、漁師が、天然の生簀いけす生船いけぶねがまえにして、さかなを貯えて置くでしゅが、たいかれいも、梅雨じけで見えんでしゅ。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
草鞋を穿いた足のこうへも落ちた上へまたかさなり、並んだわきへまた附着くッついて爪先つまさきも分らなくなった、そうしてきてると思うだけ脈を打って血を吸うような
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほとんど土の色とまがう位、薄樺色うすかばいろで、見ると、柔かそうに湿しめりを帯びた、小さな葉がかさなり合って生えている。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
背後うしろに、島田やら、銀杏返いちょうがえしやら、かさなって立ったてあいは、右の旦那よりか、その騒ぎだから、みんなが見返る、見物の方へ気を兼ねたらしく、顔を見合わせていたっけが。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かさなりあふれて、ひょこひょことうりの転がるていに、次から次へ、また二ツ三ツ頭が来て、額で覗込のぞきこむ。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戸室とむろ石山いしやまの麓がすぐながれに迫るところで、かさなり合った岩石だから、路は其処そこで切れるですものね。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ハタとめば、そられたところへ、むら/\とまた一重ひとへつめたくもかさなりかゝつて、薄墨色うすずみいろ縫合ぬひあはせる、とかぜさへ、そよとのものおとも、蜜蝋みつらふもつかたふうじたごとく、乾坤けんこんじやくる。……
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
学円 谷の姫百合も緋色ひいろに咲けば、何もそれに不思議はない。が、この通り、山ばかり、かさなかさなる、あの、いただきを思うにつけて、……夕焼雲が、めらめらといわお焼込やけこむようにも見える。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、思わず初阪が声を立てる、ト両側を詰めた屋ごとの店、かさなり合って露店もあり。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
波頭なみがしら、雲の層、かさな蓮華れんげか、象徴かたどった台座のいわを見定めるひまもなしに、声とともに羽織の襟を払って、ずかと銅像の足の爪を、烏のくちばしのごとく上からのぞかせて、真背向まうしろに腰を掛けた。
ハタとめば、その空のれた処へ、むらむらとまた一重ひとえ冷い雲がかさなりかかって、薄墨色に縫合ぬいあわせる、と風さえ、そよとのもの音も、蜜蝋をもって固く封じた如く、乾坤けんこんじゃくとなる。……
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一輪紅椿が引掛ひっかかった——続いて三ツ四ツ、くるりと廻るうちに七ツ十ウ……たちまちくるくると緋色にかさなると、直ぐ次の、また次の車へもおなじように引搦ひっからまって、廻りながら累るのが
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
てんほしかゞやごとく、さいく、こまはげしくうごくにれて、中空なかぞらよ、しうき、たにぶ、えたくものこり、つゞくもかさなり、くも結着むすびついて、くもはやがてあつく、くもはやがて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
休屋やすみややまに一かつそびえて巌山いはやま鎮座ちんざする十和田わだ神社じんじやまうで、裏岨うらそばになほかさなかさなけはしいいは爪立つまだつてのぼつたときなどは……同行どうかうした画工ゑかきさんが、しんやりも、えつつるぎも、これ延長えんちやうしたものだとおも
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
石の反橋そりはしである。いわと石の、いづれにもかさなれる牡丹ぼたんの花の如きを、左右に築き上げた、めい石橋しゃっきょうと言ふ、反橋そりはしの石の真中に立つて、一息ひといきした紫玉は、此の時、すらりと、も心も高かつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ぐるぐる廻りにうねって流れる、小川の両方に生被おいかぶさった、雑樹のぞうぞう揺れるのが、かさなり累り、所々あおって、高い所を泥水が走りかかって、田もはたも山も一色ひといろの、もう四辺あたり朦朧もうろうとして来た
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
石の反橋そりばしである。いわと石の、いずれにもかさなれる牡丹ぼたんの花のごときを、左右に築き上げた、銘を石橋しゃっきょうと言う、反橋の石の真中まんなかに立って、と一息した紫玉は、この時、すらりと、脊も心も高かった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雨を含んだ風がさっと吹いて、いその香が満ちている——今日は二時頃から、ずッぷりと、一降り降ったあとだから、この雲のかさなった空合そらあいでは、季節で蒸暑かりそうな処を、身にみるほどに薄寒い。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
群集で傘と傘がしぶも紺もかさなり合ったために、その細い肩にさえ、あがきがったらしいので。……いずれも盛装した中に、無雑作な櫛巻くしまきで、黒繻子くろじゅすの半襟が、くっきりと白い頸脚えりあしに水際が立つのです。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
野を守る姿に立って、小さな墓のかさなったのが望まれる。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かさなり合ったむね真中処まんなかどころにありまして、建物が一番古い。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
向うへ大波がうねるのが、かさなつてすごく映る。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
むかうへ大波おほなみうねるのが、かさなつてすごうつる。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)