さら)” の例文
市街戦の惨状が野戦よりはなはだしいと同じ道理で、さらに盛られた百虫ひゃくちゅう相啖あいくらうにもたとえつべく、目も当てられぬありさまである。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
といつて、なみだだかあせだか、帽子ばうしつてかほをふいた。あたまさらがはげてゐる。……おもはずわたしかほると、同伴つれ苦笑にがわらひをしたのである。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此時このときいへいて、おほきなさら歩兵ほへいあたまうへ眞直まつすぐに、それからはなさきかすつて、背後うしろにあつた一ぽんあたつて粉々こな/″\こわれました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
スープさら、コップなどを客室きゃくしつにはこんで、食卓しょくたくのよういをととのえた。暖炉だんろの火はさかんにもえて、ぱちぱちと音をたてている。
それからおさらに山盛りのチキンライスか何かをペロペロと食ってしまった、と思うともう楊枝ようじをくわえてせわしなく出て行った。
破片 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一つ一つのおさらから、すこしずつやさいのスープとパンをたべ、それから、一つ一つのおさかずきから、一てきずつブドウしゅをのみました。
一山いくらのおさらの上には、まっくろくなったバナナだの、青かびのはえかけたみかんだの、黒あざのできたりんごだのがのっていました。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
それとも、ご馳走ちそうのたくさんならんでいる食卓しょくたくについて、一さらごとに銀の紙で口もとをふきたいものだと望んでいたのでしょうか。
弟子はおじぎを一つして、となりのへやへ入つて行つて、しばらくごとごとしてゐたが、まもなく赤い小さなもちを、さらにのつけて帰つて来た。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
彼は食い荒されたにしんの背骨をひとさらせていたが、おくへ通ずるドアを後ろ足で閉めながら、突拍子とっぴょうしもない声でいきなり
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
御膳ごぜん何人前、さら何人前と箱書きのしてある器物の並んだ土蔵のたな背後うしろにして、ござを敷いた座蒲団の上に正香がさびしそうにすわっていた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
するともなくそこへ、一じょうにもあまろうという大きな赤鬼あかおにが、かみ逆立さかだてて、おさらのような目をぎょろぎょろさせながらました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
増さんはわるく遠慮をせず、すなおによろこんで受け、自分のさらにあるてんぷらを「つまんでくれ」と云ってすすめたりした。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あんまり目をさらのやうに、ひろげたのでおばあさんはつかれて、眠つてしまひました。そしてそれつきり目鏡のことなどは忘れてしまひました。
おもちや の めがね (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
ひるごはんのときにおさらをひつくりかへしました。それから野菜をこぼしました。クリームを三どもおかはりをしました。
青い顔かけの勇士 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
そして物にさわらないように片手で裳裾もすそを引上げていた。それでもやはりかまどのそばにやって来て、さらの中をのぞき込んだり、また味をみまでした。
さら。陶器。絞り出し。英国。地は黒、模様は黄。直径一尺一寸、深さ二寸二分。濱田庄司はまだしょうじ氏蔵(現在、益子参考館蔵)。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
店臺みせだいへはあつころにはありおそふのをいとうて四つのあしさらどんぶりるゐ穿かせて始終しじうみづたゝへてくことをおこたらないのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かれは城下じょうか馬場ばばはずれに立って、さらまわしの大道芸人だいどうげいにん口上こうじょうをまね、れいの竹生島ちくぶしま菊村宮内きくむらくないからもらってきた水独楽みずごま曲廻きょくまわしをやりだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、わしのむすめをおよめさんにする者は、四十枚のさらに宝石を山もりにして、それを四十人の黒んぼのどれいに持たせてよこさなければいけない。
たゞさらるいあま見當みあたりませんが、はちつぼ土瓶どびん急須きゆうすのたぐひから香爐型こうろがたのものなどがあつて、それに複雜ふくざつかたち取手とつてや、みゝなどがついてをり
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
彼らは、これらの器物をよごさないように、気にしながら、たちまちのうちに第一のさらをあけて、第二番目が注文された。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
甲給仕 疊椅子たゝみいす彼方あっちへ、膳棚ぜんだなもかたづけて。よしか、そのさらたのんだ。おいおい、杏菓子あんずぐわし一片ひときれだけ取除とっといてくりゃ。
ラップは頭のさらきながら、正直にこう返事をしました。が、長老は相変わらず静かに微笑して話しつづけました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
其時そのときは、この武村新八郎たけむらしんぱちらう先鋒せんぽうぢや/\。』と威勢いせいよくテーブルのうへたゝまわすと、さらをどつて、小刀ナイフゆかちた。
はらはらして見てゐたが、たまらなくなつて、井戸端でおさらを洗つてゐる松さんのところへ、助けを求めに行つた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
横顔なれば定かに見分け難きも十八、九の少女おとめなるべし、美しき腕はひじを現わし、心をこめて洗うはさらたぐいなり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
茶碗やさら小鉢こばちが暗い台所に光を与え、清潔が白色であることを教えた功労は大きいが、それでも一方には、物の容易に砕けることを学ばしめた難は有る。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
涼しい食物のさらが五つ六つ並んで、腹の減った小初が遠慮えんりょなく箸を上げていると、貝原はビールの小壜こびんを大事そうに飲んでいる。ぽつぽつ父親のうわさを始めた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もう一方の婦人の立てるさらの音が聞えて来る……彼女はふと十字を切ろうとするように手を動かしかけるが
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
さらを一枚こわしたと言って、ひどく、しつこくしかるのですもの。犬だの、青猿あおざるだのとののしるのですもの。それでも私は黙ってお庭のお掃除をしました。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
食卓の上を見ると、たもと時計ほどな大きさの、赤くって黒くって、焦げたものがとおばかりさらの中に並んでいる。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さらあとに皿が出て、平らげられて、持ち去られてまた後の皿が来る、黄色な苹果りんご酒のつぼが出る。人々は互いに今日の売買の事、もうけの事などを話し合っている。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
仕方しかたがない……しく此餅これみんなさらんでの……さアうか不味つまらない物だが子供衆こどもしうげてください。
分隊長を助け、部下の砲員を指揮して手早く右舷速射砲の装填そうてんを終わりたる武男は、ややおくれて、士官次室ガンルームに入れば、同僚皆すでに集まりて、はし下りさら鳴りぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
その久助が、料理のさらをいろいろと盆にのせて、部屋へはいって来たので、三人は、そっちを見た。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
キシさんはお金を渡すと、金輪かなわさらやナイフや大きなまりなど、手品の道具を、地面に敷いてあったむしろに包んで、それをかかえて、さっさと立ち去ってしまいました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
一〇四座上とこのべ酒瓶さかがめ一〇五りたるさらどもあまた列べたるが中に臥倒ふしたふれたるを、いそがはしく扶起たすけおこして、いかにととへども、只一〇六声をみて泣く泣くさらにことばなし。
毒もさらも食ってくれよう、そう思って(倉地はあたりをはばかるようにさらに声を落とした)
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ひとりひとりの食卓しょくたくの上には、おさらさかずき食器しょっきがひとそろいならべてあって、それは、大きな金の箱にはいっている、さじだの、ナイフだの、フォークだので、こののこらずが
眠る森のお姫さま (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
寮長や舎監やの見張番役を仰付おほせつかつて扉の外に立つてゐた私は、かれが後頭部のさらをふせたやうな円形の禿はげをこちらに見せて、ずんずん舎監室のはうへ歩いて行つたのを見届け
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
挨拶あいさつして席につき、スープを飲むに、両手をさらにかけてささげグイと飲んだという。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それから旅亭やどやへ着くと夜具蒲団やぐふとんからぜんわんさら小鉢こばちまで一として危険ならざるはなし。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
追従ついしょう、暗闘、——それから事務員某の醜悪見るに堪えないかっぽれ踊り、それから、そうだ、間もなく誰かと何かしきりにののしり合ってあげくの果てがなぐり合いとなり、さら類のこわれる音
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
頭から尻尾しっぽまである魚を飯の菜にすると云う事は久しくない事なので、私は与一の食べ荒らしたのまで洗うように食べた。与一はさらの上に白く残った鰺の残骸ざんがいを見て驚いたように笑った。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そして、だんろのそばのたなの上にのっているなべやコーヒーわかしや、戸口にある水桶みずおけや、はんぶんいている戸棚の中に見えるさじやナイフやフォークやはちやおさらまで眺めわたしました。
そのおんなは、なんでも、魔術まじゅつをインドじんからおそわったということです。人間にんげんをはとにしたり、からすにしたり、また、はとをさらにしたり、りんごにしたりする不思議ふしぎじゅつっていました。
初夏の空で笑う女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
広くとった土間の片隅は棚になって、茶碗ちゃわんさら小鉢こばちるいが多くのせてある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さらの上にすこしうつむき、そうしてスプウンを横に持ってスウプをすくい、スプウンを横にしたまま口元に運んでいただくのだけれども、お母さまは左手のお指を軽くテーブルのふちにかけて
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
わたしをふせて、まへにおかれた初霜はつしもさら模様もやう視線しせんをやつてゐました。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)