まと)” の例文
だから、その書が名技として尊敬のまとにはならない。要は書家の書だからいけないのではない。大根役者の芝居だからいけないのだ。
料理芝居 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
人にねらわれた事のない私、ああやって、形に表われた様な事で小石のまとにされた事などのない私はどんなに気味悪く思っただろう。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
お続けなさる体です。ただ後日のしるし一札いっさつお貰い申しておけば、一つは励み、一つはわしも後ろ楯のまとが立つというものでごぜえます
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その人はブリスバーンといって、常に人びとの注目のまととなっているほどに優れた才能を持っている三十五、六の男盛りであった。
奇人にはちがいありませんが、洒脱しゃだつ飄逸ひょういつなところのない今様いまよう仙人ゆえ、讃美するまとはずれて、妙にぐれてしまったのだと思います。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
少年はずこの店にはいり、空気銃を一つとり上げて全然無分別むふんべつまとねらう。射撃屋の店には誰もいない。少年の姿は膝の上まで。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
米友のまとを外してしまったそれからは、中に何も置かず、川と川原だけで、そうして、両岸の竹槍と竹槍とが、対陣の形によって
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今やかしこに、己が射放つ物をばすべて樂しきまとにむくるつるの力我等を送る、あたかもさだまれる場所におくるごとし 一二四—一二六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そしてわれわれモンテ・カアロの定連アピチュエには、射撃のまと以外の鳩というものの存在を想像することは出来ない。こういう論旨だった。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
木下繁ももはや故人だが、一時は研究所あたりに集まる青年美術家の憧憬どうけいまととなった画家で、みんなから早い病死を惜しまれた人だ。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今迄に受けたことのない心づかひのまととなつて、しかも、それが雇主やとひぬしで、目上の人からせられたので、却つて、私は、まごついた。
一月ひとつきの後、百本の矢をもって速射を試みたところ、第一矢がまとあたれば、続いて飛来った第二矢は誤たず第一矢のやはずに中って突きさり
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
あれは手加減がありました。あっしは勝負事はからの下手ですが吹矢だけは名人のつもりで、三間、五間と離れて居ても、ねらったまと
抜錨ばつびょうの時刻は一秒一秒にせまっていた。物笑いのまとになっている、そう思うと葉子の心はいとしさから激しいいとわしさに変わって行った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あんまり相手が冷静なので、まとはずした思いがした。で彼は焦心あせって来た。もっともっとえぐい事を云って、反応を見たいと思い出した。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
およそ人事を区処くしょする、まさずその結局をおもんぱかり、しかして後に手を下すべし、かじきの舟をなかれ、まときのを発するなかれ」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
全英女子の渇仰のまと、アーミー・ジョンソンのように、女でありながら英国陸軍士官に列せられる光栄を夢見て早速母親の許可を懇願した。
母と娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ふと気が付いて見れば、中庭の奥が、古木の立っている園に続いていて、そこに大きく開いた黒目のような、まとが立ててある。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
おもねることなく、悪びれることなく、天下の勢力者、清盛の面前で、堂々と意見を開陳した法印の勇気は、後々までも賞賛のまとになった。
〔譯〕凡そ人事を區處くしよするには、當さに先づ其の結局けつきよくの處をおもんぱかりて、後に手を下すべし。かぢ無きの舟はなかれ、まと無きのはなつ勿れ。
「満廷讃美のまとがなんだい! 誰がオールド・ベーリーを美人の審査員にしたのだね? あれは金髪のお人形というだけさ!」
同盟敬遠主義のまとになっている奴だ。吾輩は彼の名を聞いて少々尻こそばゆき感じを起すと同時に、一方では少々軽侮けいぶの念も生じたのである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「……恐ロシイ爆音ヲアゲテ、休ミナク相手ノ上ニ落チタ。まとはずレテ落チタ砲弾ガ空中高ク水柱すいちゅう奔騰ほんとうサセル。煙幕えんまくハヒッキリナシニ……」
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おい、じつとして居ないか、まとが狂ふぢやないか。僕はいつそ一思ひにつ付けたいから、君の頭に狙ひを付けてるんだ。」
さむらいは実に封建時代に於ける世人憧憬あこがれまとであった。しかし「さむらい」の語は、もと決してそんなえらいものではなかった。
たゞをとこうらんでのろひ、自分じぶんわらひ、自分じぶんあはれみ、ことひと物笑ものわらひのまととなる自分じぶんおもつては口惜くやしさにへられなかつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
その状あたかもまとなきに射るがごとく、当たるも巧なるにあらず、当たらざるも拙なるにあらず、まさにこれを人間外の一乾坤けんこんと言うも可なり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
文「いや待てよ、何処どこの島へくのか知らぬが、磁石も無ければまともない、何方どっちの方へ往く所存か知らん、困ったものだ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もはや太郎は約束のことなど忘れて、白い木独楽を目当めあてに思う存分に打込んだから、まとれずに真二つに勇の独楽は割れて飛んでしまいました。
百合の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
加之いろなら圖柄づがらなら、ただあつたかく見せる側の繪といふことがわかるだけで、何處に新機軸しんきじゆくを出したといふ點が無い。周三の覗ツたまとはすツかりはづれた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
けれども、あせりすぎて、よくねらいをつけるひまがありませんでしたから、まとがはずれてしまいました。そのあとから、また一飛んできました。
、これは麻雀界マージヤンかい論議ろんぎまとになつたことだが、麻雀マージヤンあそびといふより以上いじやううんあそびであることはあらそへない。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
まとつては隨分ずいぶんつらいこともあらう、なれどもれほどの良人おつとのつとめ、區役所くやくしよがよひの腰辨當こしべんたうかましたきつけてくれるのとはかくちが
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
唯〻つるぎに切らん影もなく、弓もて射んまともなき心の敵に向ひて、そもいくその苦戰をなせしやは、父上、此の顏容かほかたちのやつれたるにて御推量下されたし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
こういう注視のまとの小説家が自分の方へやって来る嬉しさに、つい何もかも忘れてしまい、やや大きいめの脣を歪めて含み笑いながら彼を迎えたのだ。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
こうして鎗中村の猩々緋と唐冠の兜は、戦場のはなであり敵に対する脅威であり味方にとっては信頼のまとであった。
(新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかしおおげさに大阪じゅうの中学生のあこがれのまとだと憧れている点を勘定に入れて、美人だと決めることにした。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
どうしたつてんだねエ——日がモウ入りかけてるのに、仕様しやうがあつたもんぢやない、チヨツ」と、お加女は打ち腹立てて、まともなく当り散らしつゝあり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
とき流行りうかうといへば、べつして婦人ふじん見得みえ憧憬しようけいまとにする……まととなれば、金銀きんぎんあひかゞやく。ゆみまなぶものの、三年さんねん凝視ぎようしひとみにはまとしらみおほきさ車輪しやりんである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
郷里では、いい物笑いのまとではあったろうけれども、私は今度こそはという意気込みで、翌年の春までには、二つの長篇小説と、八つの短篇小説を書いた。
いわゆる闇夜のつぶてで、もちろん確かなまとは見えないのであるが、当てずっぽうに投げ付ける小石がぱらぱらと飛んで、怪しい声のぬしをおびやかしたらしく
坂本の玉は大砲方たいはうかたの腰を打ち抜いた。金助の玉は坂本の陣笠ぢんがさをかすつたが、坂本はたゞ顔に風が当つたやうに感じただけであつた。本多のたままつたまとをはづれた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あるいは其石それをどこへ当てるかというまとを付けて、そうしてその石をぶん投げるということを奨励します。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
形は権衡けんこうの問題であるからこれは少しつり合いが変だと素人しろうとにも目につく、日本人の顔の大きさは彼女の洋装において一等皆さんの笑いのまととなるのである
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
ロミオ あゝ/\! こひめは始終しゞゅう目隱めかくしをしてゐて、けれども存分ぞんぶんそのまとをばとめをる!……え
「えらいこっちゃ。あやってにこにこしよる若いもんを、わざわざ鉄砲てっぽうの玉のまとにするんじゃもんなあ」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
朝廷は怨嗟えんさまととなり、重税をのがれるための浮浪逃亡が急速に各地に起り、おのずから荘園はふとり、国有地は衰え、平安朝の貴族の専権、ひいては武家の勃興ぼっこう
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
もういやな陰気な商売はやめておしまいなさい。あなたを騎士のうちでもいちばん偉い、みんなの羨望のまとになるような人にしてあげます。あなたは私の恋びとです。
人間まとが十人、大砲の筒口の真正面に、ズラリと立並んだ。いやにフラフラする的ではあったけれど。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わたしはね、他に何かまとでもあるのかと思つたら、何のことはない、小さなカワラケの皿をね、かうひよつと機械仕掛けでとばしてね、——そいつを射つんでせう。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)