)” の例文
想像の眼で見るにはあまりに陳腐ちんぷ過ぎる彼の姿が津田の頭の中に出て来た。この夏会った時の彼の服装なりもおのずと思い出された。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それでも、もう一つなことは、こんな場合にも手に持っていた手燭の火が消えなかったことで、これは一種の奇蹟でありました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「や? これはおおせ。あなたを呉へお伴れして参ってから以来、それがしはまだあなたを欺いたことなど一度もないつもりですが」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはな願ひを聞くものかな、おそかれ早かれ、いづれ持たねばならぬ妻なれば、相應ふさはしき縁もあらばと、老父われも疾くより心懸け居りしぞ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「ほほ、これはなことを承りまする。御代参とあれば関白家も同じこと、弟御おとうとごの左大臣どのから遠慮のお指図を受きょう筈はござりませぬ」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
君の熔金の廻りがどんなところで足る足らぬが出来るのも同じことである。万一なところから木理がハネて、釣合つりあいを失えば、全体が失敗になる。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
黎元れいぐわん撫育むいくすることやや年歳としを経たり。風化ふうくわなほようして、囹圄れいごいまむなしからず。通旦よもすがらしんを忘れて憂労いうらうここり。頃者このごろてんしきりあらはし、地しばしば震動す。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
女子に経済法律とは甚だなるが如くなれども、其思想の皆無なるこそ女子社会の無力なる原因中の一大原因なれば
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
なことを申すの。戦場の駈けひきは、あらかじめ十分にはかるにある。北町奉行所きたとても、そのへん、ぬかりなく手を
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
湯嶋の高台からは海が見えるから、人家まばらに草茫々と目にさえぎるものもないその頃の鳥越からは海が見えたかも知れぬが、ちょっとな感じがする。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
自分で言ふもなものではあるが、私はよく手入れをした髪と、たかい筋の通つた鼻と、浅黒くはあるがしかしきめのこまか光沢つやのある皮膚とを持つて居た。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
安楽庵策伝あんらくあんさくでんの『醒睡笑せいすいしょう』は、元和げんな年間に書き上げたという笑話集だが、その中には「祝ひ過ぎるもなもの」という題で、そのような例が数多く出ている。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
抜いて持つたかんざし鬢摺びんずれに髪に返さうとすると、、するごとに、手のしなふにさへ、も言はれない、な、変な、悪臭わるぐさい、たまらない、臭気においがしたのであるから。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
檀家だんかなかにも世話好せわずきのある坂本さかもと油屋あぶらや隱居ゐんきよさま仲人なかうどといふもものなれどすすめたてゝ表向おもてむきのものにしける、信如しんによ此人このひとはらよりうまれて男女なんによ二人ふたり同胞きやうだい
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
が、いずれにしたところで有徳うとくの知識とは申されぬのである。寺へ酒肴持参の花見もなものである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
岩田は君公の体面上銀よりいやしい金属を用いるのは、なものであると云う。上木はまた、すでに坊主共の欲心を防ごうと云うのなら、真鍮しんちゅうを用いるのに越した事はない。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
平次は自分の胸の前にひしと兩掌を組んで、耳をすまして居ります。サツと吹いて來る夜風が、生温かく初夏の匂ひを運んで、どうにもならないな心持にさいなまれます。
なるかなこの子、七書をして六経りくけいと光を争わしめんとすと。これ松陰が十一歳の頃、長門侯毛利慶親よしちかの前に、『武教全書』を進講したるに際し、侯が嘆賞せし語にあらずや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
三光堂、鷲印、ともう一軒この処三軒の蓄音機店が集まっているのもなものである。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
此地こゝには妓楼ぎろうがありますでな、とりの無いのもなものぢやといふ事でと、神酒みきばんするらしきがなにゆゑかあまたゝび顔撫かほなでながら、今日限こんにちかぎ此祠このほこらりましたぢや。これも六七年前。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
この書のする所は、わたくしのために創聞そうぶんに属するものがすこぶる多い。就中なかんずくとすべきは、独美に玄俊げんしゅんという弟があって、それが宇野氏をめとって、二人の間に出来た子が京水だという一事いちじである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
『これはなことをはるゝものじや、あんなおほきいし如何どうしてたもとはひはずがない』と老人ろうじんに言はれて見ると、そでかるかぜひるがへり、手には一本のながつゑもつばかり、小石こいし一つ持て居ないのである。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
男優E これはなこと……。御前様ごぜんさまは、大きくおうなづきになります。
職業(教訓劇) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
縁はなもので、ゴルドン伝を書いた翌々年「寄生木やどりぎ」の主人公から突然「寄生木」著作の事を委托いたくされた。恩人たる乃木将軍の為めにと云う彼のであった。余は例に無く乗地のりじになって引受けた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「なに! なことを申したな。何じゃ! 何じゃ!」
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
「天国様を? ……なお頼み。……何んで?」
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
な所でお遇ひました。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
えんから足をぶらさげれば、すぐとかかとこけに着く。道理こそ昨夕は楷子段はしごだんをむやみにのぼったり、くだったり、仕掛しかけうちと思ったはずだ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かくべつとも意外ともしてないらしい容子なのが、対者には、なお疑っているのかと思われて、むしろおちつかないまなざしにさせていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あい、約束した人が……約束と申しますと、なことに聞えましょうけれど、わたしを親身しんみにしてくれた人が待っているはずでございます」
そのなかには「鬼談」というところまでは到達しないで、単に「奇談」という程度にとどまっているものもないではないが、そのなるものはつとめて採録した。
こま犬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
... あまとあるは、海に潜る海女にてはなく、いにしえは海辺の遊女の異名であったあまを指したもので」。刀自殿はな顔をして「それまた、変った御説よの」と乗出してこられた。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
平次は自分の胸の前にひしと両掌を組んで、耳をすましております。サッと吹いてくる夜風が、生温かく初夏の匂いを運んで、どうにもならないな心持にさいなまれます。
かへて八重やへやおまへふことがあるはるにつきての花鳥はなどりくらべてなにきぞさてかはつたおたづそれ心々こゝろ/″\でも御坐ございませうが歸鴈きがんあはれにぞんじられますりとてはなことぞみやこはる
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
居所高ければもって和すべく、居所ひくければ和すべからざるのあるのみ。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
すると、向うの家の二階で、何だか楽器をき出した。はじめはマンドリンかと思ったが、中ごろから、赤木があれはことだと道破どうはした。僕は琴にしたくなかったから、いや二絃琴にげんきんだよとてた。
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そば屋が昔からあるということはちょっとなものであるが、しかしそばとても決して馬鹿に出来ないものなのだということをこの店や、四丁目のやぶそばが証明しているのだと見ることも出来る
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
だから突然この小舅こじゅうとと自分の間に御櫃おはちを置いて、互に顔を見合せながら、口を動かすのが、御米に取っては一種な経験であった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それはさっき河童がいった有範朝臣あそんの館にちがいないのである。しかし、二人は、そのほかに、なものを見たのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これは、な仰せでございますな、お奉行様が盗人に頼みたいこととおっしゃるのは——これは、どうしても頼まれて上げなければなりますまい」
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「夜ふけに伺いまして、だしぬけにこんなことを申し上げるのもなものでございますが、わたくしはこの御近所に居りますもので、昨晩不思議な夢を見ましたのでございます」
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
だから突然とつぜんこの小舅こじうと自分じぶんあひだ御櫃おはちいて、たがひかほ見合みあはせながら、くちうごかすのが、御米およねつては一種いつしゆ經驗けいけんであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
が、紙燭ししょくをかざして、中坪の濡れ縁を通りかけた人影は、なにか不審なと、すぐを感じていたらしく、ふと、たたずんだまま外を見ていた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「左様さ、あの飽きっぽい赤鍋の親玉が、嘉助が娘のお蘭にかかっちゃ、からたあいねえんだから、なものだのう」
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こんなことを言い出すのは甚だなように聞えるかも知れないが、自分の店のおきてとして、すべての奉公人が金を落したり奪られたり、あるいは勘定を取り損じたりしたような場合には
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
吾輩は突然このな爺さんに逢ってちょっと驚ろいたからこっちの記述はそのままにして、しばらく爺さんを専門に観察する事にした。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「尾張殿はまだお若い総大将。かりに道中でな風聞をお耳にしても、そこは、伊吹の道誉が、ていよく申しくるめたことにちがいありませぬ」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「便りをしないことは悪かったが、便りをしないことが自他のためであったのだ。それはそうと変ることはなかったか……と尋ぬるもなものだが……」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さりとて今まで有りもしなかった地蔵尊を俄かに据え置くのもなものであり、且は世間の信仰もあるまいという延光の意見で、深川寺の石屋松兵衛という者に頼みまして、一体の地蔵尊を作らせ
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それにしてもこの前父が卒倒した時には、あれほど驚いて、あんなに心配したものを、と私は心のうちで独りな感じをいだいた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)