せい)” の例文
れはこまった、今彼処あそこで飲むと彼奴等きゃつらが奥にいって何か饒舌しゃべるに違いない、邪魔な奴じゃと云う中に、長州せい松岡勇記まつおかゆうきと云う男がある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かれは文学と画とをあわせ学び、これをもって世に立ち、これをもってかれ一せいの事業となさんものと志しぬ、家は富み、年は若し。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
来たら留めて置いてくれとのはがきに接した時、いさゝか不審に思いは思いながら、まさか彼がせい見捨みすてようとは思わなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
土生仙之助がサッ! と顔色を変えたかと思うと、突如庭奥の闇黒やみから銀矢一閃、皎刃こうじんせいあるごとく飛来して月輪軍之助の胸部へ……!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
実はかく申すせいも数年前までは『古今集』崇拝の一人にてそうらいしかば、今日世人が『古今集』を崇拝する気味合きみあいはよく存申ぞんじもうし候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
われにぎつて、さうまなこあきらかにさいを、多勢たぜい暗中あんちゆう摸索もさくして、ちやうか、はんか、せいか、か、と喧々がや/\さわてるほど可笑をかしことい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
丁度黄昏どきのわびしさの影のようにとぼとぼとした気持ちで体をはこんで来た、しきりにせいとげとか悲哀の感興とでもいう思いがみちていた。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
素人しろうとながらも、何らせいある音を聞き得ない。水をいたかと聞けば、吐かないという。しかし腹に水のあるようすもない。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
生き恥を曝したあの女も、絶望と羞恥とから自殺をしようと、惨めなせいをつづけようと、いずれにせよ破滅したのだ。……
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それが、あたかもせいあるもののごとく、綱わたりをいたしまするから、ふしぎもふしぎ、まかふしぎ。さあ大夫さん、わたりましょうぞ。はーッ
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そういう死の懊悩おうのうが彼の幼年時代の数年間を苦しめた。——その懊悩はただ、せい嫌悪けんおによってのみ和げられるのだった。
さりながら彼らの孝道は畢竟かくのごとくにせいけ、かくのごとくに生をつづけてることをもつて無上の幸福とする感謝のうへにおかれてゐる。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
せいの歡びを感ずる時は、つまり自己を感ずる時だとおもふ。自己にぴつたりと逢着するか、或はしみじみと自己を噛み味つてゐる時かだらうとおもふ。
このふねっている三にんのものは、たがいにかお見合みあって、ためいきをつきました。せいも、も、運命うんめいにまかせるよりほかに、みちがなかったからです。
南方物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これを哲学にすると、からせいすのは不可能だが、せいからに移るのは自然の順序であると云ふ真理に帰着する。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
渠は今更らの如くせいの響きを感じた。そして、それと同時に、悲痛孤獨の感じがもとの通り胸一杯に溢れて來た。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
わしの胸にはせいの鼓動を感じ、わしの腕には力を感じ、わしの誇りとする思想は鷲のごとくに空間を看破する。
それでも自分ぢや何か為てる積りかなんかで……そりや到底とても叔父さんの心持を節やなんかに話さうたつて、話せるもんぢやない……せいの焔ツてことが有るが
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
燕王ついまた師をひきいてづ。諸将士をさとして曰く、たたかいの道、死をおそるゝ者は必ず死し、せいつる者は必ず生く、なんじ努力せよと。三月、盛庸せいよう來河きょうがう。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
せいがあればこそあんなにもせいたのしみ、あんなにもうつくしい姿態すがたつくりて、かぎりなく子孫しそんつたえてくのじゃ。
一切に絶望し一切を虚無ニヒルと見流し、既に詩作さへ無意味だと感じて居たのだけれどもその心を裏切るせいの未練が死を戀うて蟲けらのやうに生きる『墓標』を書き
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
大原君が洋行から帰って来て天下に家庭教育の改良を呼号こごうする時分はまた大食一点張いってんばりの大原せいでないぜ。世間は必ず家庭の救世主を以て大原君を崇拝するだろう。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
どうしてかうも今の自分のせい全体と無関係なことに興味を持つのか、不思議と云へば不思議であつた。
癩を病む青年達 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
のろふのぢゃ? せいてんこのつが相合あひあうて出來できをば、つい無分別むふんべつてうでな? 馬鹿ばかな、馬鹿ばかな! 姿すがたを、こひを、分別ふんべつはづかしむる振舞ふるまひといふものぢゃ。
いま孔明のいた陣には八つの門がある。名づけて、きゅうせいしょう、杜、けいきょうかいの八部とし、うち開と休と生の三門は吉。傷と杜と景と死と驚との五門は凶としてある。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(六四)君子くんしをはりてしようせられざるをにくむ。(六五)賈子かしいはく、『(六六)貪夫たんぷざいじゆんし、(六七)烈士れつしじゆんし、(六八)夸者くわしやけんし、衆庶しうしよ(六九)せいたのむ』
わしは人間というものがこのようなさびしい、とぼしい状態におちいり得るものとは思わなかった。いや、それよりもかような寂寞せきばくと欠乏とにえてもなおせいを欲するものとは思わなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
今までの己はせいとはいってもまことの生ではなかったから、己は今から己の死を己の生にして見よう。死も生も認めぬ己が強いて今までを生といって、お前を死と呼ばねばならぬはずがない。
が、世間の思っているように岩山ばかりだったわけではない。実は椰子やしそびえたり、極楽鳥ごくらくちょうさえずったりする、美しい天然てんねん楽土らくどだった。こういう楽土にせいけた鬼は勿論平和を愛していた。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そういう場所で人が感ずるところのものは、既にわれわれがマリユスについて指摘してきたとおりであり、また結果もやがて述べんとするとおりであるが、実にせい以上でありまた以下である。
せいの少女のナペアイが住んでいる。また狭く並んだ木々が9540
さらにわがせいちからあらしめんがために砒素ひそ医局いきよくの棚より盗み
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そのよろいが、まるでせいあるもののように、動いたのです。
怪奇四十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この神祕ありて、其胎そのたいは肉と心との新らしきせいを迎ふ。
(旧字旧仮名) / アダ・ネグリ(著)
君は再び見ざるべし、われ又せいを續くべき 90
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
昏睡こすゐせる人の無感覚こそやがてそのせい」なれ。
失楽 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
みじかいせいの花粉のさかづきをのみほすのか。
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
彼等をせいの力にあふれさせねばならない。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
せいにはあはれ死のころも、死にはよせい
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
せい』はなほも光をすひぬ。
秋 なげかひ (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
芯折れた鉛筆せいを秘めてゐる
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
火ぞ燃ゆる—せいのあくがれ。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
せいしののめの草いろの火を
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
人死をまつせいたはいなし
芭蕉について (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
せいちから仕業しわざなる。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
従ってその人の歌と聞けば読まぬ内からはやきものと定め居るなどありうちのことにてせいも昔はその仲間の一人に候いき。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
まだせいの力を失わないイナゴは、後足をはってしきりにのがれようとする。しかし放してやっても再びみずから草にとりつく力はないらしかった。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
矢印の示すところには赤鉛筆で、傍線ぼうせんのついている記事があった。表題は、「無線と雑音の研究」とあり、「大磯おおいそHSせい」という人が書いているのだった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
剣鬼左膳の片手からせいあるごとく躍動する怪刀濡れ燕の刃にかかって……いまごろは、三つの死骸が飛び石のように、夜の町にころがっているに相違ない。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
太郎たろうが、小学校しょうがっこうの四ねんせいになったとしなつはじめでありました。どこのうちにもつばめがかえってきました。どうしたことかひと太郎たろううちにはつばめがきませんでした。
つばめの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)