こが)” の例文
そらこが狼火のろし……そして最後さいご武運ぶうんいよいよきてのあの落城らくじょう……四百年後ねんご今日こんにちおもしてみるだけでも滅入めいるようにかんじます。
あの日、雪子と悦子とが大急ぎで突堤へけ付けると、シュトルツ父子はもうさっきから甲板に出て待ちこがれていたところであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
待ちこがるる人はここに来た、けれどもあんまり突飛とっぴです。夜の丑の刻に屋根伝いにここへ来るとは、お松の眼には、これも夢以上。
カンテラは桟橋をこがし、炭煙は桟橋に立ちこめている。ボーラ吠え、石炭かつぎ呶鳴どなり、波止場人足さけび、かんかん虫夜業にたたく。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある時は天をこがほのおの中に無数の悪魔がむらがりて我家を焼いて居る処を夢見て居る。ある時は万感一時に胸にふさがって涙はふちを為して居る。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
彼の姿絵を、床の下に敷きながら、こがれ死んだ娘や、彼に対する恋のかなわぬ悲しみから、清水きよみずの舞台から身を投げた女さえない事はない。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一向ひたぶるに名声赫々かくかくの豪傑を良人おっとに持ちし思いにて、その以後は毎日公判廷にづるを楽しみ、かの人を待ちこがれしぞかつは怪しき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
勘次かんじたゞしなにのみこがれてたのであるが、段々だん/\日數ひかずつて不自由ふじいうかんずるとともみゝそばだてゝさういふはなしくやうにつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
言ひ聽せてやり度えのは、井筒屋の主人の方だよ。本家が零落れいらくしたから附き合はねえといふのも不人情だが、そんなにこがれて居る娘の許婚を
「頭領のこがれている阿婆擦あばずれだ、とっ捉まえて連れて行き、うんとこさ褒美にあずかろうぜ!」……で妾を取り巻いたものさ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今日という日はその為めに待ちこがれていた日ではないか。彼はそう思いながら、ひとりでにジャネットの丸い肩に手をかけた。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さればとてまた、誰とちぎらんと願うにもあらず、ただ、わが身の年若く、美しき事のみなげかれ、いたずらなる思に身をこがすなり
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今までここの女にこがれていればこそ馬鹿にされ放題馬鹿になっていたが、こう見えても丹波や丹後の山の中から出て来た人間とは人が違うんだ
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
二条の院の女王にょおうは起き上がることもできないほどの衝撃を受けたのである。こがれて泣く女王を女房たちはなだめかねて心細い思いをしていた。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
やみに乗じて山里を逃亡いたしました、その晩あたりは何も知らないお幸が私の来るのを待ちこがれていたのに違いありません。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
他の者に見られないようにそっと、私はそれを火の中に投げこんだ。燃えこがれた暗号書の灰の中に、それは見えなくなった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
變りし世は隨意まゝならで、せる都には得も行き給はず、心にもあらぬ落髮をげてだに、相見んとこがれ給ふ妻子の恩愛は如何に深かるべきぞ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
畑のものも、田のものも、林のものも、園のものも、虫も、牛馬も、犬猫も、人も、あらゆる生きものは皆雨を待ちこがれた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
殊に、自分は世の塵の深きにまみれ、久しく自然の美しさにこがれた身、それが今思ふさまその自然の美を占める事が出来る身となつたではないか。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
何でも才つたなく学浅くしてかたちさへ醜くき男が万づに勝れて賢き美はしき乙女にこがれてとても協はざる恋路にやつるゝ憐れさをかこつたものださうな。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
雪之丞は、ひたむきに、恋にこがれ、ひとすじに、父親の愛情にすがろうとする、浅はかな女の心根が、不憫ふびんにも思われる。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
思ふにフェートンがその手綱を棄てし時(天これによりて今も見ゆるごとくこがれぬ)または幸なきイカーロが 一〇六—
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
火のような雲が空を飛んで、焼けるような強い日が朝から晩まで照りつけた。それにこがされた都の土は大地震のあとのように白く裂けてしまった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ぐるぐるまわりながら、その夜明を待ちこがれた私は、永久に暗い夜が続くのではなかろうかという思いに悩まされました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ロレ 祖師そしフランシス上人しゃうにん! こりゃまたなんたるかはりやうぢゃ! あれほどにこがれておゐやつたローザラインを
自分は初めて現実的な恋愛の感情が我身をこがすのを覚えた。その男とついに結婚した。自分のとしは二十四であった。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
畳の上に焼けこがしをなし、火鉢の灰にたんを吐くなぞ、一挙一動いささかも居室、家具、食器、庭園等の美術に対して、尊敬の意も愛惜の念も何にもない。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
待ちこがれて居た二月二十日はつか謝肉祭キヤルナヷル、その前後五日いつかわたつて面白かつた巴里パリイの無礼講の節会せちゑも済んで仕舞しまつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
もだこがれるばかりに身を押揉み、なにやらん不思議なことをせられていられるてい、まことに由々しく見えた。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
石灯篭のかげに身をひそめ、頭を長くし、丸く隈取った眼をきょろきょろさせて、懸命に心をこがしている。
純情狸 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
こうして一時間おき位に時計を出して見ては、ひたすらに光にこがれながら、思出多い一夜を過して行った。
一ノ倉沢正面の登攀 (新字新仮名) / 小川登喜男(著)
われ/\は、とほみやこはなれた地方ちほうなが距離きよりをば、こがれてやつてた。そして、いまこのときがつくと、この明石あかし海峽かいきようからうちらに、畿内きない山々やま/\えてゐる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
老人、唯今の心地を申さば、炎天にこうべさらし、可恐おそろしい雲を一方の空にて、果てしもない、この野原を、足をこがし、手を焼いて、徘徊さまよ歩行あるくと同然でござる。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時ベルナルドオは忽ち聲朗かに歌ひはじめたり。少女は聲をしるべに隣の亭に入りぬ。きぬそよぎと共に接吻の聲我耳を襲へり。此聲は我心をこがたゞらかせり。
きらひ給ふと云事なれば長三郎は假令たとへこがれて死する迄も是非縁組とは云ざるなれば只今たゞいますぐ癲癇てんかんと云る證據を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はるばるも帰り来しものかな——やがて亜細亜アジアのメトロポリスへ、汽車は走り込むのだ。半球の旅のおわりと、空をこがす広告塔の灯とが私達を待っているであろう。
一と目三井寺こがるる胸をぬしは察してくれの鐘と、そのねやに忍んで打ち口説くどけど聞き入れざるを恨み、青年の袋の内へ銀製の名器を入れ置き、彼わが家宝を盗んだと訴え
女としての私に恋こがれておりましたあの兇悪無残の殺人鬼、生蕃小僧が、女性としての私を恋する余りに、それこそ生命いのちがけで私の罪悪をカバーしてくれましたお蔭で
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これは私たちみんなが、安息日あんそくびから次の安息日まで、待ちこがれてゐた七日目毎の御馳走であつた。
彼が二年の間一すぢにこがれに焦れ、その焦れが崇拝になり、遂にそれが絶望と定まつた時、次第に熱情的な占有の欲望が静かな諦めの祈りと変り、宗教的あこがれと変じ
わがはいは決して道徳問題は、みなみな無造作むぞうさに解するものと言うのではない。一生の間には一回二回もしくは数回はらわたち、胸をこがすようなあらそいが心の中に起こることもある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
もっとも、喬之助には琴二郎という小さな弟があるきりで両親はないのだから、親たちといっても伊豆屋の方だけだが、当人同士が恋いこがれていたことは、言うまでもない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
君はもはや鷹につかまったすずめと同じだ。僕は君が苦しんで、苦しんで、苦しみ抜いて死んで行くところを静にながめたいのだ。思えば、この時機をどんなに待ちこがれたことか。
卑怯な毒殺 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
と思うと、急にさッとドアを開けて、さも待ちこがれてでもいたように、息まではずませて
深夜の客 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
眼前に闇よりもひときわ黒くられたる案山子かかしは焼けこがらされし死骸のごとく、はるかの彼方に隠々として焔えつつ遠くなり近くなりパシパシ火の子のハシる阿園が棺の火は
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
お常はとうと恋病こひやまひに取つ憑かれた。徳三郎がお初の似顔絵をいたまゝ、こがじにに死にかゝつた。娘の不心得をいかつた両親も、末期まつごの哀れさに、伝手つてをもとめて徳三郎を招いた。
そろそろと不老不死の術を恋いこがれ、ついに道士どうしの言にあざむかれて無益の探求をくわだつるに至ったなどは、いわば支那シナ古代の小説の一つの型であって、たまたまその中の特に美しく
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「見っともないじゃありませんか? 豊子さん/\って、あんな下品な人に恋いこがれて」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
つてからは、城の内外の持口々々もちくち/″\篝火かゞりびつらねて、炎焔えん/\てんこがすのであつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかしてキリストを知り、その贖罪あがないを信じ、その再臨を望み、そして自身の復活永世を信じ得るに至るときは、我らもまたヨブと共に叫んで言う「わが心これを望みてこがる」と。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)