両眼りょうがん)” の例文
旧字:兩眼
そして両眼りょうがんを閉じた。それは人造人間エフ氏をうごかす電気のスイッチを切ったのである。エフ氏の耳がスイッチだったのである。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
、三このいのりをりかえしてうちに、わたくしむねには年来ねんらいみこと御情思おんなさけがこみあげて、わたくし両眼りょうがんからはなみだたきのようにあふれました。
鬼は、手拭てぬぐいで堅く両眼りょうがんを閉められて、その石の間に立たされた。してあとのものは、足音を立てずに何処どこへか隠れてしまった。
過ぎた春の記憶 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その方法を見ていると、両眼りょうがん上瞼うわまぶたを上から下へとでて、主人がすでに眼をねむっているにもかかわらず、しきりに同じ方向へくせを付けたがっている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれは両眼りょうがんになみだをいっぱいうかべて、わたしを見ていた。わたしはかれに合図をして、また二人でうちを出た。
彼は吃驚びっくりしてふり返ってみると、左の肩に添うて自分のうちの主婦が両眼りょうがんを彼の顔に物凄く釘づけして立っている。
幸福な家庭 (新字新仮名) / 魯迅(著)
あるものはさら智慧ちえを出して、草紙の黒いところを丸く切りぬいて、膏薬こうやくのやうに娘の両眼りょうがんに貼りつけた。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
(私はいまもそのじゅうを記念として大事にしている)両眼りょうがんにくしみといかりに青くえ、私をにらんで底うなりを発したとき、私の乗馬はふるえてあとずさりした。
才蔵はやりをひくめにつけて慈音じおんせまらんとし、慈音の両眼りょうがんは中段にとった枇杷刀びわとうのミネにすわっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愈々いよ/\狂人の取扱いにしようと致しますと、長二は案外に立腹をいたしまして、両眼りょうがんに血をそゝぎ、額に青筋を現わし拳を握りつめて、白洲の隅まで響くような鋭き声で
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
過去かこのことをおもすものは、両眼りょうがんくじってしまいましょう。リュバフキン!』と、かれ大声おおごえたれかをぶ。郵便局ゆうびんきょく役員やくいんも、来合きあわしていた人々ひとびとも、一せい吃驚びっくりする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「ぼくはね、兄さん」次郎はなにかいわんとしてくちびるを動かしかけたが、すぐ両眼りょうがんにいっぱいの涙をたたえ、「ごめんなさい兄さん、ぼくが悪いんです。ぼくが悪いんです」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
両眼りょうがん真黄色まっきいろな絵具の光る、巨大な蜈蜙むかでが、赤黒い雲の如くうずを巻いた真中に、俵藤太たわらとうだが、弓矢をはさんで身構えた暖簾のれんが、ただ、男、女と上へ割って、柳湯やなぎゆ、と白抜きのに懸替かけかわって
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
刀は額の真中から鼻の上にかけて真向まっこうに入ったが、すこしも血が出なかった。女は両眼りょうがんしずかに開けて太郎左衛門を見た。彼はその顔を見定める間もなく、二の刀で乳母の首に切りつけた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その時君の両眼りょうがんは、新しく額縁に入れたゴルドン将軍の絵の上にじっとそそがれていたろう。そして君の顔を見ると、たしかに何か瞑想しているらしい表情の流れのあるのに気がついたんだ。
入院患者 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
というのは、伯爵の両眼りょうがんは、くわッと大きくむかれていた。まばたきもしない。前方の一つところを、じいッと見つめているのだった。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はなさきがとがって、両眼りょうがんちくぼんで、ぬぐいでこうはちきをして、きっとくちをむすんでいます。
死と話した人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しばらくして先生は「あけるなら開いて御覧なさい。とうていあけないから」と云われる。「そうですか」と云うが早いか主人は普通の通り両眼りょうがんを開いていた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
みことのお身代みがわりとして入水にゅうすいされたときひめのお心持こころもちはどんなであったろう……。』祠前しぜんぬかづいてむかししのときに、わたくし両眼りょうがんからはあつなみだがとめどなくながちるのでした。
仰向けに胸へ緊乎しっかと手を組んで、両眼りょうがん押睡おしつむって、気を鎮めようとしたのです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
熱い膏薬を両眼りょうがんに貼り付けられて、俄盲にわかめくらになつた上に、相手はもかくも侍ふたりである。善吉はただおめ/\と身をすくませてゐると、彼等は帳場の金箱かねばこを引つかゝへてばた/\と逃げ出した。
赤膏薬 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
大佐はホッとして、手で両眼りょうがんを拭き払いながら
彼は両眼りょうがんをカッと見開き、この一見意味のない台辞せりふきちらしていたがやがてブルブルと身震みぶるいをすると、パッと身をひるがえして駈け出した。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたくしただちに統一とういつめて、いそいで滝壺たきつぼうえはしますと、はたしてそこには一たい白竜はくりゅう……爛々らんらんかがや両眼りょうがん、すっくとされた二ほんおおきなつのしろがねをあざむくうろこ
高柳君は自分の心が自分の両眼りょうがんから、外をのぞいていたのだなと急に気がついた。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うめくやうに言つて、ぶる/\と、ひきつるが如く首をる。かれは、四十ばかりの武士さむらいで、黒の紋着もんつきはかま足袋跣たびはだしで居た。びん乱れ、もとどりはじけ、薄痘痕うすあばた顔色がんしょく真蒼まっさおで、両眼りょうがんが血走つて赤い。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
両眼りょうがんうしなって、ここまでのぼってくるのに、二人ふたり看護婦かんごふかたたすけられなければならぬひともあったが、そのひともやがてこしをかけると、じっとして、おなじようにっているのでありました。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして両手をしずかに肩のところまであげたかと思うと、両眼りょうがんをかッと見開いて、自分の前の青年をはったとにらみつけ
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「なに、卵が空……」博士はカッと両眼りょうがんを開くと、怪物を見直した。そして気が変になったようにわめきたてた
(新字新仮名) / 海野十三(著)
果してその効果がありたると見え、金博士は両眼りょうがんさえ閉じ呼吸いきもつかずに、残余ざんよのノクトミカ・レラティビアをフォークの先につきさして喰うわ喰うわ……。
床の上には、幾野捜査課長が土のような顔色をし、両眼りょうがんきだし、口を大きく開けて仆れていた。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのくせ一層大きくなったように見える血走った両眼りょうがんを、クワッと見ひらいて私の方を凝視ぎょうししているのだった。私の顔付から何事かを読みとろうというような風だった。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
頭髪とうはつひげものびっぱなしで、顔の中から出ているのは色の悪いソーセージのような大きな鼻だけだった。両眼りょうがん所在ありかは、煙色けむりいろのレンズの入った眼鏡にさえぎられて、よくは見えない。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
老婦人は、一つ寝返ねがえりをうちました。そのときに両眼りょうがんを天井の方に大きく開きました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
博士がX号に誘拐ゆうかいせられて、この研究所へもどって来、そしてその両眼りょうがんがはっきり見えるようになって以来、博士はたいへん元気になったけれど五少年には親しみにくいものとなってしまったのだ。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは全く飛ぶという言葉のあてはまったような恰好でした。私は何か見違みちがいをしたのだろうと思いかえして、両眼りょうがんをこすってみましたが、確かにその人間はフワリフワリと空中を飛んでいるのです。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
亀の子束子ほどの蠅が、草履ぞうりほどの大きさになり、やがてラグビーのフットポールほどの大きさになった。電球ぐらいもある両眼りょうがんはギラギラと輝き、おそろしい羽ばたきの音が、私の頬を強く打った。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
老人はよろこびのあとで、また両眼りょうがんをうるませた。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)