鼻翼びよく)” の例文
少女はこの一炷いつしゆかう清閑せいかんを愛してゐるのであらうか? いや、更に気をつけて見ると、少女の顔に現れてゐるのはさう云ふ落着いた感情ではない。鼻翼びよくは絶えず震えてゐる。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
鼻翼びよくがつり上り気味にふくらむだけのことだったが——手をやたらに横にふって答えた。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ドングリ色の小肥こぶとりの彼の顔が、エネルギーと熱気とにちて私の前にあった。彼は、あぐらをかいたような小鼻をひくひくさせ、鼻翼びよくあぶらをかがやかせて、なおもいいつづけた。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
口をつぐんだまま正面から私を見返した彼の顔付は——その面皰にきびのあとだらけな、例によって眼のほそい、鼻翼びよくの張った、脣の厚い彼の顔は、私の、繊細な美を解しないことに対する憫笑びんしょうや、又
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)