ゆる)” の例文
膝の上までり開きたる短衣は裂けほころび、ゆるく肩に纏へる外套めきたる褐色かちいろの布は垢つきよごれ、長き黒髮をばうなじに束ね、美しき目よりは恐ろしき光を放てり。
お松は夜着の中から滑り出て、ゆるんだ細帯を締め直しながら、梯子段はしごだんの方へ歩き出した。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
室内へやぬちには一小卓を安んじ、上に十字架を立てたるが、ともしびをばその前に點せるなり。二人の小娘はきぬはづして、白き汗衫はだぎゆるやかに身にまとひ、卓の下に跪きて讚美歌を歌へり。
主公はこれを見て興にった。筍の周囲の土は、あらかじめ掘り起して、ゆるめたのちにまたき寄せてあったそうである。それでも芸人らは容易たやすく抜くことを得なかった。家苞いえづとには筍を多く賜わった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この岸は土ゆるければ、踏むに從ひてくづるることありといへり。そが上、岸近きところには水牛あまたあり。こは猛き獸にて、怒るときは人を殺すと聞く。されど我はこの獸を見ることを好めり。