馬耳東風ばじとうふう)” の例文
老人らが懇々こんこん吾人ごじんに身のおさめ方について説いてくれるときでも、この老いぼれめが維新前いしんぜんの話をしているわいと、馬耳東風ばじとうふうに聞き流すことが多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
何進の催促を馬耳東風ばじとうふうに、豺狼さいろうの眼をかがやかしつつ、ひそかに、眈々たんたんと洛内の気配をうかがっているのであった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忠告的の書物が幾らあったところが、先生らの耳には馬耳東風ばじとうふうというより見も聞きもせず、いわゆる余所よその国にある結構けっこうな宝物とちっとも違わんのでありますから、何の役にも立たんです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
とBは、万物流転説を遵奉するアテナイの大言家の声色こわいろうなりながら未練も残さずに出て行った。不安も悲劇も自信も僕にとっては馬耳東風ばじとうふうだ。あまりBの様子ぶった態度が滑稽こっけいだったから
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
ひどく優雅で上品な顔なのだが、よくまアこんなにハリアイのない心なのだろう、と、私は女の笑い顔を見ていつもそればかりしか考えないが、女は又馬耳東風ばじとうふうでただ笑っているだけのことである。
魔の退屈 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一般にこれを馬耳東風ばじとうふうに付し去るの有様ありさまなりき。
いわんや、公卿当局がここへきて、“中興ノ新儀”だの“復古ノ御新政”などとうたったところで、武士あらましは、馬耳東風ばじとうふうつらでしかない。そしてただ
何をいっても、馬耳東風ばじとうふうである。そして独り合点を繰り返しているばかりの相手だった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)