顱頂ろちょう)” の例文
額際ひたいぎわから顱頂ろちょうへ掛けて、少し長めに刈った髪を真っ直に背後うしろへ向けてき上げたのが、日本画にかく野猪いのししの毛のように逆立っている。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
顱頂ろちょうの極めてまんまるな所(誰だって大体は円いに違いないが、案外でこぼこがあったり、上が平らだったり、うしろが絶壁だったりするものだ。)
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
若いときからかぶっている軍帽でむされて髪の毛がうすくなったのが五分刈の下からもわかる顱頂ろちょう部をもっていて
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
(あのうつむいた隊長のひよわそうな顱頂ろちょうを見おろした時ふと涙が出そうになったが、あの時の気持は何だろう)
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
阪井の顱頂ろちょうはアッシャーヘンブルグの類別による典型的なアッテーケン型であることに気がつきました。
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
運動の無い前額から顱頂ろちょうにかけての頭蓋部ずがいぶが、最も動的な其人の内心の陰影をあらわすのは不思議である。額の皺が人間の閲歴を如実に語るものである事は言う迄もなかろう。
人の首 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
禿頭は父親から男の子に遺伝する性質だという説があるが、それがもし本当だとすると、私の父は七十七歳まで完全におおわれた顱頂ろちょうっていたから、私も当分は禿げる見込が少ないかもしれない。
厄年と etc. (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
(今、高城のことで涙が流れそうな気がしても、それで思い止まる位なら、今朝隊長の薄い顱頂ろちょうを見おろした時の感情で、俺は既に逃亡を思い止まった筈だ)
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
長六閣下が、上背のある、古武士のようなきりっとしたそびららせて、しずかに、弓を引き絞っている。まっ白い毯栗いがぐり顱頂ろちょうのうえに、よく晴れた秋の朝の光が、斜めに落ちかかっている。
うつむいた隊長の髪の薄い顱頂ろちょうを見守りながら、彼はふっと涙が流れそうな衝動を感じたが、それを押し切るように首をあげ、彼は確かな声音で一語一語復唱した。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
惨苦が額に烙印らくいんをおす。どれもこれも、鉛色の顔をし、ぼんやりと漂うような眼付をしていた。裸足。むっとするような獣類の匂い。りあげた不気味な顱頂ろちょう。足を曳きずるような奇妙な歩き方。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)