韻律いんりつ)” の例文
われわれの冒険者は、なんとなく自分の目がそういう繁栄を吸い、耳がそういった韻律いんりつに言い寄られているような気持だった。
ふと、遠くの竹林の中から、まるでざわめく風の中からでも生れたかのように、わらべ達の合唱する童謡わざうたが、美妙な韻律いんりつをひびかせながら、だんだんと聞えて来る。………
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
死体が僅かに身体をもたせかけた栗の木の、みきの中程に、今年初めてのつくつく法師が、地獄の使者のような不吉な韻律いんりつを響かせながら、静かに、執拗に鳴いていたのだ。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
顔つきが、れぼったく、いつも、ややぎらぎらしている。彼は怒鳴どなるように話をする。婦人に向かってさえもそうだ。頸筋くびすじしわが、カラアの上で、ゆるやかに韻律いんりつ正しく波を打っている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
その不思議な韻律いんりつは、曲と踊とが常に一緒に現れるからに依るのだと思います、あの悠大な沖縄の女詩人恩納おんななべの作の如き、全くそうであります。彼女は文字を知らない人だったといいます。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そのうちに、俊寛は、その叫び声の中に、ある韻律いんりつがあるのに気がつく。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
……いま琴を弾じておるに、幽玄清澄ゆうげんせいちょうの音いろ、にわかに乱れて、殺伐さつばつ韻律いんりつとなった。かならず、窓外へきたものは、血なまぐさい戦場からさまようてきた落武者かなんぞであろう。……名を申せ。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お染さんは平気で韻律いんりつ演説を続ける。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
かれの神経は低級な音や、卑俗な、やるせなさそうな韻律いんりつを、むさぼるように受け容れた。