雲谷うんこく)” の例文
絵の方とてもその通り、雲谷うんこく狩野かのうびもよかろう、時にはわれわれの筆のあとの、絢爛けんらん華美の画風のうちにも、気品も雅致もあるのを知ってもよいと思うがな。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「左様、南北流を少々修行つかまつり、狩野、土佐、雲谷うんこく円山まるやま、四条の諸派へも多少とも出入り致しました」
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
古来からこの難事業に全然のいさおしを収め得たる画工があるかないか知らぬ。ある点までこの流派りゅうはに指を染め得たるものをぐれば、文与可ぶんよかの竹である。雲谷うんこく門下の山水である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雪舟が周防のY町の雲谷うんこくに住んでゐたのは、四十歳を五つ六つ過ぎた頃であらう。文芸復興期の明から帰つて来て、豊後にちよつとゐて、それから当時大内氏が領主であるY町に来たのである。
故郷に帰りゆくこころ (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
生半可なまはんか雲谷うんこくの画風がどうの、牧谿がどうの、友松がいつの時代のと、考証癖が手伝ったり、江戸時代の画史画論の雑書の観念などが交じるので、よけいそこが混雑してしまうのではあるまいか。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大抵たいていのものは絵画にしきえのなかに生い立って、四条派しじょうはの淡彩から、雲谷うんこく流の墨画すみえに老いて、ついに棺桶かんおけのはかなきに親しむ。かえりみると母がある、姉がある、菓子がある、こいのぼりがある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)