雅懐がかい)” の例文
旧字:雅懷
そうすれば琴韻清越きんいんせいえつ、多年干戈剣戟かんかけんげきうちにも、なお粗朴なる洗心と雅懐がかいを心がけていた丞相その人の面影をしのぶに足るといわれている。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私のような世間見ずの天邪鬼あまのじゃくに対しても終始寛容を以て臨んでくれた。そういう田中さんにはいわば人生の端役を以て任じている者の雅懐がかいがあった。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
しかも少しもあせらず、押売りせず、悠々として人智の発達を待とうとする高風こうふう雅懐がかいは、まことに見上げたものである。私は心からこの章の精読を皆様におすすめしたい。
だがほんとうの優美というものはたしなみの深い都会人でなければ理解できないものであるから平凡のうちにおもむきのある此処ここの風致もむかしの大宮人の雅懐がかいがなければ詰まらないというのが当然であるかも知れない。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ただ惜しいかなこの手輩てあいは、雪の日、客に梅をいて、時節を待ちながらも時節を度外している雅懐がかいはないのである。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
光秀とても決して自然の美や雅懐がかいを解さないものではなかったが、いかにせん彼の心はなお寝ても起きても絵筆を持ってみても、人と人との葛藤かっとうの中にあった。修羅相剋しゅらそうこくの人間社会にあった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)