閑人かんじん)” の例文
それからまたパリのあるカツフエにやはり紅毛人こうもうじん畫家ぐわか一人ひとり、一わんの「しるこ」をすゝりながら、——こんな想像さうぞうをすることは閑人かんじん仕事しごと相違さうゐない。
しるこ (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
……その貴重なるものへ、山荘の一閑人かんじんが、鞍をかけて、悠々、労さず道をあるくとはまことに、申しわけないことだ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平坦なる大通おおどおりは歩いて滑らずつまずかず、車を走らせて安全無事、荷物を運ばせて賃銀安しといえども、無聊ぶりょうに苦しむ閑人かんじんの散歩には余りに単調にすぎる。
単なる史上の閑題目として、空しく閑人かんじんの手にゆだね去るべきものではないのかもしれない。
垣内の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
もっとも偉大なる理想をもっともよく実現するものは我々生存の目的をもっともよく助長する功蹟のあるものであります。文芸の士はこの意味においてけっして閑人かんじんではありません。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
愚叟ぐそうは山野の閑人かんじんに過ぎん。わしに十倍百倍もするような人物が、いまに必ず将軍を、お扶けするじゃろう。いや、そういう人物をばせいぜい尋ねられたがよい」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しからざれば如何に無聊ぶりょうなる閑人かんじんの身にも現今の東京は全く散歩にえざる都会ではないか。