ちら)” の例文
『ハ、いいえ。』と喉が塞つた様に言つて、山内は其狡さうな眼を一層狡さうに光らして、短かい髯を捻つてゐる信吾の顔をちらと見た。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
第一中隊のシードロフという未だ生若なまわかい兵が此方こッちの戦線へ紛込まぎれこんでいるから⦅如何どうしてだろう?⦆とせわしい中でちら其様そんな事を疑って見たものだ。
二十五六の痩せてはいるが骨格のがっしりした、眉の濃い浅黒い顔が酒を飲んでいるためにあかく沈んでいるのをちらと見たが、気もちの悪いものでも見たと云うようにしてすぐ眼をそらした。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
今迄お利代の坐つてゐた所には、長い手紙が拡げたなりに逶迤のたくつてゐた。ちらとそれを見乍ら智恵子は室に入つて
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『一概には申されませんけれど、嫌ひぢや御座いません。』と落着いた答へをしてちらと男の横顏を仰いだが、智惠子の心には妙に落着がなかつた。前方の人達からは何時しか七八間も遲れた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
と落着いた答へをしてちらと男の横顔を仰いだが、智恵子の心には妙に落着がなかつた。前方まへの人達からは何時しか七八間も遅れた。背後うしろからは清子と静子が来る。其跫足もどうやら少し遠ざかつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)