釣忍つりしのぶ)” の例文
袴無しの着流しで、蝋塗りの細身の大小を差し、白扇を胸の辺りでパチツカせ、青簾に釣忍つりしのぶ、そんなものが軒にチラチラ見える町通りを歩いて行った。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
青くなって指さしをしたから、その指さしをしたところを見ると、欄干に細引が結えつけてあって、それから釣忍つりしのぶつるしたように何か吊してあるようです。
釣忍つりしのぶるとか、欠けた鉢で朝顔を育てるとか、軒先の僅かな地面に草花を植えるとか、または朽ちかかったような自分の住居の、柱や敷居を拭きみがきしたり
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
腕組みをして釣忍つりしのぶを見あげながら、下ッ引の話を聴いていたが、檐から眼を離すと軽くうなずいて
顎十郎捕物帳:18 永代経 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
高々と腕をこまぬいて、朝っから軒の釣忍つりしのぶにらめっこをしております。
裏通りを三四丁た所で、平岡がさきへ立つて或家あるいへ這入はいつた。座敷ざしきのき釣忍つりしのぶかゝつて、せまにはが水で一面にれてゐた。平岡は上衣うはぎいで、すぐ胡坐あぐらをかいた。代助は左程あついとも思はなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)