金扇きんせん)” の例文
お春は静かに次のへと退ったがしばしして、秋の空を思えとや、紫紺に金糸銀糸きんしぎんしもて七そうを縫った舞衣まいぎぬを投げかけ金扇きんせんかざして現われました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その馬じるしたる金扇きんせんの下に、旗本たちの鉄槍陣をまんまると従え、前二段に、鉄砲隊をき、大物見を、その先に伏せさせ、さて、いつでもと落着きすました。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひどく意気な剣術のほうで、秋、銀杏の大樹の下に立って、パラパラと落ちてくる金扇きんせんの葉を、肘ひとつでことごとく横に払って、一つも身に受けないという……。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
四月八日の仏生日たんじょうびが来た。許宣はきょういたので承天寺しょうてんじへ往って仏生会たんじょうえを見ようと白娘子に話した。白娘子は新らしい上衣うわぎ下衣したぎを出してそれを着せ、金扇きんせんを持って来た。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
徳川勢の追躡ついしょうを知ると、ただちに、生牛おうしはらに休めていた第二隊を挙げて、家康ここにあり——と、さし招いている、ふじヶ根山の金扇きんせんをにらんで、堂々たる決戦の意志を
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふじヶ根山の山かげから、さんとして、ゆれ現われた徳川軍の上なる金扇きんせんの馬じるしを。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金扇きんせん馬簾ばれんが、ゆらりゆらり、そこから少し山蔭へかくされた頃——ぶつの山腹から裾にかけて、井伊兵部直政いいひょうぶなおまさの赤一色の旗さし物や人数が、岩間岩間を山つつじの花が染めるように
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)