蹌踉ひょろひょろ)” の例文
「いや、どうも盛会ですな。」と、ビールのコップを右の手に高くかざしながら、蹌踉ひょろひょろと近づいて来る男があった。それは、勝平とは同郷の代議士だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
……意識の力はどこまでもハッキリしたまま……うつつともなく、夢ともなく、私の眼の前の床が向うの方に傾くにつれて、半分なかば開いた入口の方向を眼指めざしつつ蹌踉ひょろひょろと歩み出した。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
火事の最中、雑所先生、はかま股立ももだちを、高く取ったは効々かいがいしいが、羽織も着ず……布子の片袖引断ひっちぎれたなりで、足袋跣足たびはだしで、据眼すえまなこおもてあいのごとく、火と烟の走る大道を、蹌踉ひょろひょろ歩行あるいていた。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うんと足を踏みしめると、天秤棒が遠慮会釈もなく肩を圧しつけ、五尺何寸其まゝ大地に釘づけの姿だ。思い切って蹌踉ひょろひょろとよろけ出す。十五六歩よろけると、息が詰まる様で、たまりかねてろす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)