赧然たんぜん)” の例文
梅子は思はず赧然たんぜんとしてぢぬ、彼女かれの良心は私語さゝやけり、なんぢかつて其の婦人の為めに心に嫉妬しつとてふ経験をめしに非ずやと
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
同時にいまさらのように、そのとき不注意にわきみをするとか隣のものに話しかけるとかしたかも知れなかった自分をふり返ってわたしは赧然たんぜんとした。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
忙裏荏苒じんぜん今日に至り、いまだ一回もその結果を世間に報告せざりしをもって、四方より妖怪事実を寄送せられたる諸氏は、これを督責してやまず。余、実に赧然たんぜんたらざるを得ず。
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
不死不朽、彼とともにあり、衰老病死、我と与にあり。鮮美透涼なる彼に対して、たわみ易く折れ易き我れ如何に赧然たんぜんたるべきぞ。こゝに於て、我は一種の悲慨に撃たれたるが如き心地す。
一夕観 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
一句ヲ得ルニ及ンデコレヲ余ニただス。余すで沈酣ちんかんシテ何ノ語タルヲ弁ゼズ。答フル所アルイハソノ問フ所ニ異ル。然リトイヘドモ上人ノ寛懐もとヨリコレヲ罪セズ。余メテ後赧然たんぜんトシテ自ラヅ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)