語彙ごゐ)” の例文
しかしそこには必しも「騒々しい感じ」を含んでゐない。若し谷崎氏の語彙ごゐに従ふとすれば、「包容力の大きい」と云ふ言葉と同意味にしても善いのである。
自己の有する語彙ごゐの貧しさを嘆かずにはゐられまい。
郁雨に与ふ (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
(詩は——古い語彙ごゐを用ひるとすれば、新体詩は短歌や発句ほつくよりもかう云ふ点では自由である。プロレツトカルトの詩はあつても、プロレツトカルトの発句はない。)
僕自身も「姿」とか「形」とか云ふ意味に「ものごし」と云ふ言葉を使ひ、すさまじい火災の形容に「大紅蓮だいぐれん」と云ふ言葉を使つた。僕等の語彙ごゐはこの通り可也かなり混乱を生じてゐる。
こころみに思へ、品蕭ひんせうの如き、後庭花こうていくわの如き、倒澆燭たうげうしよくの如き、金瓶梅きんぺいばい肉蒲団にくぶとん中の語彙ごゐを借りて一篇の小説を作らん時、善くその淫褻いんせつ俗をやぶるを看破すべき検閲官のすう何人なるかを。(一月三十一日)
芭蕉の語彙ごゐはこの通り古今東西に出入してゐる。が、俗語を正したことは最も人目に止まり易い特色だつたのに違ひない。又俗語を正したことに詩人たる芭蕉の大力量もうかがはれることは事実である。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)