袖乞そでご)” の例文
が、何故なぜかたき行方ゆくえほぼわかった事は、一言ひとことも甚太夫には話さなかった。甚太夫は袖乞そでごいに出る合い間を見ては、求馬の看病にも心を尽した。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
太宰府だざいふもうでし人帰りきての話に、かの女乞食にたるが襤褸ぼろ着し、力士すもうとりに伴いて鳥居のわきに袖乞そでごいするを見しという。人々皆な思いあたる節なりといえり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
が、その媚や微笑の底には、袖乞そでごいのようないやしさや、おおかみのような貪慾どんよくさが隠されていた。此の若い男女が交しているような微笑とは、金剛石と木炭のように違っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あのひとはごほんごほんせきをして、袖乞そでごいをする。そして今日のように、どこかの壁へ頭をぶっつけ始める、子供らは泣く……やがてあのひとはたおれて警察へ運ばれる。
病気でもあるのか寒さのためか、差出された手はひどくふるえてい、上半身をかがめた躯も不安定に揺れていた。これでもう五たびか六たび、功兵衛が通りかかると袖乞そでごいをするのであった。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは僕が卑劣なために言ったことなんだ……僕の母はほとんど自分で袖乞そでごいしないばかりの有様なんだもの……僕はこの下宿に置いてもらって……食わしてもらいたさに、嘘を
身なりと全体の様子で、二人は彼を全くの乞食こじき、街頭における本物の袖乞そでごいと思い込んだらしい。大枚二十カペイカ奮発したのも、あの鞭が女に惻隠そくいんの情を起こさせたからに違いない。