藪入やぶい)” の例文
藪入やぶいりの小僧こぞうさん、学校帰りの腕白わんぱく、中には色気盛りの若い衆までが「ここはお国を何百里」と、喜び勇んで、お馬の背中でおどるのだ。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わけてもその夜は、おたな手代てだいと女中が藪入やぶいりでうろつきまわっているような身なりだったし、ずいぶん人目ひとめがはばかられた。
姥捨 (新字新仮名) / 太宰治(著)
さてこの「春風馬堤曲」は、蕪村がその耆老きろうを故園にうの日、長柄川ながらがわの堤で藪入やぶいりの娘と道連れになり、女に代って情を述べた詩である。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
十六、七日の藪入やぶいりを雨に取られたので、そのつぐないをしようとする小店員。リュクサックを肩に、一晩泊りのハイキングに出るオフィス・ガールや青年達。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
きりょうしのせいか、台所女中でなく、お座敷女中になった少女は、藪入やぶいりに家へ帰ってきたときなど、見ちがえるような美しさになっていて、俺をどきどきさせたが
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
このときの勘定はわたし自身が支払ったのでないからくは知らないが、藪入やぶいり連中をあて込みの値安芝居であったらしく、芝翫も福助も我童も権十郎も出勤していなかった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「さめるまで寝かしときなさい。藪入やぶいりなんだから。」
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
春風馬堤曲に歌われた藪入やぶいりの少女は、こうした蕪村の詩情において、蒲公英たんぽぽの咲く野景と共に、永く残ったイメージの恋人であったろう。彼の詩の結句に引いた太祇たいぎの句。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
お正月の藪入やぶいり連を相手にするのであるから、そういう向きのものでなければ困るという話があったので、条野採菊じょうのさいぎく翁と岡鬼太郎おかおにたろう君とわたしの三人がにわかにそれを引受けることになった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
藪入やぶいりなんかでもどったときには、きっといらっしゃいね。先生、みんなの大きくなるのが見たいんだから。なんしろ、あんたたちは先生の教えはじめの、そして教えじまいの生徒だもん。仲よくしましょうね」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)