藤沢ふじさわ)” の例文
旧字:藤澤
かつて藤沢ふじさわから車で帰った時であります。大仏の表の方に湧いている清水を、車夫はちょっと梶棒を下ろしてうまそうに飲みました。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「まだ来ないようだ。——来なくって仕合せさ。僕は藤沢ふじさわにひっぱられて来たもんだから、もうかれこれ一時間ばかり待たされている。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
第一日が神奈川かながわ泊まり、第二日が藤沢ふじさわ、第三日が小田原、第四日に至って初めて箱根に入り込むというのであるから、往復だけでも七、八日はかかる。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三左衛門主従はその晩は山のふもとへ宿をとり、翌晩は藤沢ふじさわあたりに泊り、その翌日金沢へまで帰ってみると、宿しゅくの入口に江戸のやしきから来た家臣が二三人待っていた。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一里九町走ってほどの宿。二里九町走って戸塚とつか。さらに二里飛ばして藤沢ふじさわ。よつや、平塚ひらつかと走りつけてこの間が二里半。大磯おおいそ、小田原と宿継ぎに飛ばして、ここが四里。
もと藤沢ふじさわで相当の宿屋をしていたのが、すっかり失敗して困っていたのを若松屋惣七が、例の侠気おとこぎから助け出して、東海道の掛川の宿に、具足屋という宏壮こうそうな旅籠をひらかせて
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
音楽会が終った後で、俊助しゅんすけはとうとう大井おおい藤沢ふじさわとに引きとめられて、『城』同人どうじん茶話会さわかいに出席しなければならなくなった。彼は勿論進まなかった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ほとんど常に夕暮の様な店の奥の乏しい光も、まっ赤な土耳其帽トルコぼうを頂いた藤沢ふじさわを見分けるには十分だった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)