かぶ)” の例文
気紛れなあの雪の日も思ひ出せないやうなうらゝかな日、晴代はもう床を離れてゐたので、かぶさつた髪をあげ、風呂へも行つた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
と、その乾いた唇がたるんで、再びあらわれた歯を見ると、濃厚なぬらぬらした鳶色の粘液が一杯にかぶさっていた。
青蠅 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
蓊欝こんもりと木がかぶさつてるのと、桶の口を溢れる水銀の雫の樣な水が、其處らの青苔や圓い石を濡らしてるのとで、如何な日盛りでも冷い風が立つて居る。智惠子は不※渇を覺えた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
御影にだつて倉の附いてゐるうちも無い事もないが、そんなうちは得て家賃が高い。で、その男は送つて来た米俵を、内庭に高く積み、その上へ大きな金網をかぶせて鼠除ねずみよけをしてゐる。
うん、さうする事の出来る時もあるが、雲の掩ひかぶさる面積は非常に広いから、大抵の場合さうは行かない。その上雲が或る国から他の国へ行く時は、どんなに早い競馬馬だつて追附きやしない。
すべてのものが暮れ足の早い蔭影に呑まれて行くのに、独りこの骸骨だけは、徐々と、確実たしかに生命を喚びかえして、る看る肉が付いていくようであった。歯のところに、唇がかぶさった。
誰? (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)