蒸被むしぶすま)” の例文
長羅はひとり転がる人波を蹴散らして宮殿の中へ近づくと、贄殿にえどのの戸を突き破って寝殿の方へんだ。広間の蒸被むしぶすまを押し開けた。八尋殿やつひろでんを横切った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
蒸被むしぶすまなごやがしたせれども妹とし宿ねば肌し寒しも」(巻四・五二四)というのは、同じような気持を反対に云ったものだが、この歌の方が、むしろ実際的でそこに強みがあるのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
蒸被むしぶすま にこやが下に四二
長羅は剣をひっ下げたまま、蒸被むしぶすまを押し開けて、八尋殿やつひろでん君長ひとこのかみの前へ馳けていった。そこでは、君長は、二人の童男に鹿の毛皮を着せて、交尾の真似をさせていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
広間の中では、君長ひとこのかみは二人の宿禰すくねと、数人の童男と使部しぶとを傍に従えて、前方の蒸被むしぶすまの方を眺めていた。数箇の燈油の皿に燃えている燈火は、一様に君長の方へ揺れていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)