自前じまえ)” の例文
盆暮ぼんくれには母子そろって挨拶にくるのを欠かさない——いまは息子の孫七があとをとって、自前じまえの田畑を耕し、ささやかながら老母を養っている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「線香は、よそにつけとるとでしょう。それとも、自前じまえみたよなもんじゃけ、検番を通さんで、来たのかも知れんですわ。裾を引かんで、普段着で来とるようじゃけん」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
パリの町中まちなか散歩さんぽしたりかけ歩いたりするついでに、ぐうぜんおぼえるだけではなかった。このお父さんはいよいよ自前じまえで植木屋を開業するまえに植物園の畑ではたらいていた。
二人してあすこへ落着きましょうよ、そうして、わたしは自前じまえ暢気のんきにこの商売をしますから、あなた兄さんになって頂戴——これだけ資本もとでがあれば、立派に自前で通して
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それにしても、えらいよ。ねんがあけたら少し自前じまえで稼いで、残せるだけ残すんだね。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして今じゃあ、言わば自前じまえになったって訳さ。己はイングランドの時には九百ポンドめ、フリントのところでは二千ポンド貯めた。これぁ平水夫にしちゃあ悪かあねえだろ。
「いいえ、そうじゃございません、自前じまえでございます」
金に窮してのうえではないので、自前じまえでもよいのだが、身分を隠すため、わざと、借金をした。新之助も、君香も、「よいが来てくれた」といって、すこぶる、よろこんだ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
新しく自前じまえになれたら、何とつけましょうねえ、そうそう、『宇津うつ』とつけましょう、それがいいわ、宇津と御本名をそのままいただいては恐れが多いから、かなでねえ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いいえ、清月さんの抱えではありません、これでも新前しんまえ自前じまえなのよ」
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)