脂臭あぶらくさ)” の例文
ある冬の日の暮、保吉やすきち薄汚うすぎたないレストランの二階に脂臭あぶらくさい焼パンをかじっていた。彼のテエブルの前にあるのは亀裂ひびの入った白壁しらかべだった。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夜鷹よたかか何かの一番丈夫で脂臭あぶらくさくて、ブヨブヨしたのを拾って来たんだろうという噂ですが、近頃その小汚いのに嫌気がさしたようで、出すとか出るとかブスブスくすぶっているそうです。
しかし古着屋の店を眺め、脂臭あぶらくさい焼パンをかじり、「ホット(あたたかい)サンドウィッチ」を見ると、「妻よ妻よ恋し」と云う言葉はおのずからくちびるのぼって来るのだった。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夜鷹よたかか何んかの一番丈夫で脂臭あぶらくさくて、ブヨブヨしたのを拾つて來たんだらうといふ噂ですが、近頃その小汚いのに嫌氣がさしたやうで、出すとか出るとかブスブスくすぶつてゐるさうです。
行つて見ると、やはり机の側に置炬燵おきごたつを据ゑて、「カラマゾフ兄弟」か何か読んでゐた。あたれと云ふから、我々もその置炬燵へはいつたら、掛蒲団の脂臭あぶらくさにほひが、火臭い匂と一しよに鼻を打つた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)