聞馴ききな)” の例文
もっとも、小松原とも立二りゅうじとも、我が姓、我がめいを呼ばれたのでもなければ、聞馴ききなれた声で、貴郎あなた、と言われた次第でもない。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かと思うとやがて耳許みみもと聞馴ききなれた声がして、しきりと自分を呼びながら身体からだ揺動ゆりうごかすものがある。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ええ、おらが事か。兄さん、とけつかったな。聞馴ききなれねえ口を利きやあがる。幾干いくらで泊める。こう、旅籠は幾干だ。」
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
処へ、土地ところには聞馴ききなれぬ、すずしい澄んだ女子おなごの声が、男に交って、崖上の岨道そばみちから、巌角いわかどを、踏んず、すがりつ、桂井かつらいとかいてあるでしゅ、印半纏しるしばんてん
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうした折よ、もう時雨の頃から、その一二年は約束のように、井戸の響、板の間の跫音、人なき二階の襖の開くのを聞馴ききなれたが、おんなの姿は、当時また多日しばらくあいだ見えなかった。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひとツ人の聞馴ききなれない、不思議な言語ことばがあつたんです。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)