耳語ささや)” の例文
今竜が見え次第大声でその竜肉をいたいと連呼よびつづけよと耳語ささやいて出で、竜を呼び込むと右の通りで竜大いに周章あわて、袋を落し逃れた。
そうして心のうちのどこかで、それを打ち明けたが最後、親しい母子おやこが離れ離れになって、永久今のむつましさに戻る機会はないと僕に耳語ささやくものが出て来た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は闇夜を透して見ると二人の男が梯子はしごを登ってドーブレクの部屋の前に忍び寄るらしい。耳を澄すと、微かに戸をこじ開ける音が聞える。風の間に間に人の耳語ささやき声も耳に触れる。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
四隣あたりへ気を兼ねながら耳語ささやき告ぐ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
動くものは必ず鳴ると見えるに、蛇の毛は悉く動いているからその音も蛇の毛の数だけはある筈であるが——如何いかにも低い。前の世の耳語ささやきを奈落ならくの底から夢の間に伝える様に聞かれる。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのそば絹帽シルクハットが二つ並んで、その一つには葉巻のけむりが輪になってたなびいている。向うの隅に白襟しろえりの細君がひんのよい五十恰好かっこうの婦人と、きの人には聞えぬほどな低い声で何事か耳語ささやいている。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
男は叔母に何か耳語ささやいた。叔母はすぐ叔父の方へ顔を寄せた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
非道ひどいわね」と重子が咲子に耳語ささやいた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)