老酒ラオチュウ)” の例文
屈んではいれる程度の、石窟せっくつのような家の口が、右側にあった。眠たげな赤い軒燈の下に、老酒ラオチュウびんが五ツ六ツ転がっているのを見る。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
参木は高重の来るまでここで、老酒ラオチュウを命じて飲み始めた。二人はこれから工場の夜業を見に廻らねばならぬのだ。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
今村の顔には次第に生気せいきがさしてくるようだった。南京町にいって、支那料理屋にはいり、老酒ラオチュウをのみ、よく食べた。それから電車で東京に帰っていった。
フランスには葡萄酒ぶどうしゅ、ドイツにはビール、中国には老酒ラオチュウ、日本には日本酒というふうに、それぞれの国に「国の酒」があるわけであるが、アメリカには、そういう酒はない。
パーティ物語 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
のちに芥川龍之介氏の「支那游記」をよむと、同氏もここに画舫がぼうをつないで、えんじゅ梧桐ごとうの下で西湖の水をながめながら、同じ飯館の老酒ラオチュウをすすり、生姜煮しょうがにの鯉を食ったとしるされている。
女侠伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
老酒ラオチュウもおいしかった。でも、ちょっとへんな酔い方をしたようだったねえ」
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
参木に老酒ラオチュウの廻り出した頃になると、料理は半ば以上を過ぎていた。テーブルの上には、黄魚のぶよぶよした唇や、耳のような木耳きくらげが箸もつけられずに残っていた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
その夕方、私も彼と共に老酒ラオチュウを飲みながら大石蟹ドザハをつっつき、槍蝦チャンホをかじり、蚶子フウツをほじくった。清水のなかに住むこの大蟹と小蝦と小貝との生肉について、彼はしきりに自賛していた。
秦の憂愁 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
僕はあまりガツガツすると日本人の名誉に関すると思い、あまり食べないようにしたが、野呂と来たらわき目もふらずせっせと食べました。まったく自意識のないやり方です。酒は老酒ラオチュウでした。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)