緩慢なだらか)” の例文
緩慢なだらかな地勢に沿うて岡の上の方から学校の表門の方へ弧線を描いている一筋のみちだけは往時むかしに変らなかったが、門のわきに住む小使の家の窓は無かった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三吉が家の横手にある養鶏所のわきから、雑木林の間を通り抜けたところに、草地がある。緩慢なだらかな傾斜は浅い谷の方へ落ちて、草地を岡の上のように見せている。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
緩慢なだらかではあるが、しかし深い谷が楼のすぐ前にひらけていて、半蔵はそこいらを歩き回るには事を欠かなかった。清い水草の目を楽しませるものは行く先にある。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その足で、捨吉は講堂の前から緩慢なだらかな岡に添うて学校の表門の方へ出、門番の家の側を曲り、桜の樹のかげから学校の敷地について裏手の谷間の方へ坂道を下りて行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
牧師が説教台の上で読んだ亡い学友の略伝——四十五年の人の一生——互にそのことを語り合いながら、城下らしい地勢の残ったところについて緩慢なだらかな坂の道を静かに上って行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
信濃しなの美濃みの国境くにざかいにあたる一里づかに近い位置をえらんで街道を往来する旅人の目にもよくつくような緩慢なだらかな丘のすそに翁塚おきなづかを建てる、山石や躑躅つつじらんなどを運んで行って周囲に休息の思いを与える
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)