綾羅錦繍りょうらきんしゅう触るるもの皆色を変ず。粒化りゅうかして魚目に擬し、陶壺中とうこちゅう鉛封えんぷうす。酒中しゅちゅう神効しんこうあり。一りゅうの用、めい半日はんにちを出でず。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
深窓の美姫びき紅閨こうけい艶姐えんそ綾羅錦繍りょうらきんしゅうたもとを揃えて、一種異様の勧工場、六六館の婦人慈善会は冬枯に時ならぬ梅桜桃李ばいおうとうりの花を咲かせて、暗香あんこう堂に馥郁ふくいくたり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十六になる長女の茶々ちゃちゃをかしらに女の子のみ三人を連れたお市御料人は、それこそ、王昭君おうしょうくんの遠きへ行く日にも似るかなしき綾羅錦繍りょうらきんしゅうにつつまれて、五彩の傘輿さんよは列をなして北越の山をこえ
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しずが伏せ屋の見すぼらしい母子おやこが只の人でないと眼をつけられ、綾羅錦繍りょうらきんしゅううちかしずかるる貴婦人がお里を怪しまるるそもそもの理由も、またここにあるのではありますまいか。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
どうだね、殊に親も兄弟も叔父叔母もない。ただ手足と、顔と、綾羅錦繍りょうらきんしゅうと、三味線と冷酒ひやざけと踊とのみあって存する、あわれな孤児みなしごをどうするんです、ねえ君、そこは男子おとこの意地だ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)